和菓子屋「萩屋」の夏｜リアクション

和菓子屋「萩屋」の夏

●幸福な寝子高生と我慢する寝子高アイドル（と思ってる女）
　
　寝子高に通い始めて３ヶ月程になる楡宮遠海は、シーサイドタウン周辺を歩き回っている。
　極度な方向音痴は規格外というか、いくらなんでも、これはひどすぎると思うわ。どうにかしないと……」
　ジリジリとした夏の日差しに炙られ、同じところを行ったり来たりするのはいい加減あきた。
　涼しそうな場所で何か甘いものが食べたい……と思いながら周囲を見渡すと、近くに和菓子屋らしきお店が。
「和菓子屋「萩屋」っていうのね」
　涼みながら和菓子を……と脇目もふらず「萩屋」へ。

　午前１０時の開店と同時に来た遠海に、冷たい風が吹きつける。
「今月のおすすめは水ようかんだ！　暑い夏を乗り切るにはこれが一番さね」
　矢萩秋や従業員、アルバイト達は来店したお客様に和菓子を勧める。
「もちろん、他の和菓子も美味しいよ！　どんどん食べておくれ！」
　和菓子、たくさん食べてもいいのね、と遠海は何にしようか店内を見回り選ぶ。
　店の外をチラリと見ると、店の前をウロウロしている剣崎エレナを見かけた。
「あの人、何をしているのかしら」
　それが気になった遠海だったが、陳列棚やショーケースにある色とりどりな美味しそうなお菓子に釘付けになっているうちにエレナのことを忘れてしまった。
　店内の様子を見ながら、エレナは食べるべきか、我慢するかというジレンマに陥る。

　目もあやなたくさんの和菓子を目にした遠海の結論は、片っ端から注文しまくるだった。
（目に映った和菓子、洋菓子、どれも美味しそう。迷ったら全部食べるに限る！）
　彼女、スレンダーな肢体から想像もつかないほどの大食い。
　喫茶スペースの席に着くなり「定番のお菓子と夏の和菓子、洋菓子をお願いします！」と大量に注文。
　アルバイトが心配したのを察したので「全部食べます！」と声高らかに宣言。
「時間かかかっても待ちます！」
　食べる気マンマンなので全部食べるかも。
　そう思ったアルバイトは、注文したものを用意するよう職人に頼む。
　調理場で仕事中の職人は「そんなに！？」と驚くが、全部食べると自信満々でした、と聞くと用意し始めた。

　ワクワクして待つ遠海のもとに、注文したものが続々と運ばれた。
「お待たせしました」
　吉住志桜里と従業員が、代わる代わる配置に気を付けながらテーブルに並べていく。
　おはぎにおまんじゅう、わらび餅や水ようかん。琥珀糖、モンブランや苺ショートやシュークリームといった洋菓子が所狭しと並ぶ。
　迷うことなく食べ始めたのはおはぎ。
「重たそうに見えるけど意外に軽いわ。いくらでもいけちゃうね」
　おはぎを食べ終えたので、次はわらび餅を。冷たい食感がいいねと味わう。
　和菓子をあらかた平らげたので次は洋菓子に。モンブランを食べようとした時。
　窓越しにエレナが羨ましそうに凝視しているので困惑する。
　我慢している女の人の前で食べるのはちょっと……と、気まずくなってきた。
「私は寝子高のアイドル！　スタイルを崩すことなんてできないわ！」
　まだ悩んでいるエレナを見かけた寝子高英語教師ウォルター・Bは「剣崎、何をしているのかなぁ？」と背後から声をかけた。
　恥ずかしいっ！　とエレナは赤面してダッシュで「萩屋」前を去った。
　食べたいのなら食べたらいいのに、とウォルター先生は呆れて「萩屋」の中へ。

　そのやり取りを見ていた遠海は、これで安心して食べられるとモンブランを食べ始めた。
　苺ショートとシュークリームも美味しい、と大満足。
「これも美味しい」
　琥珀糖は一気に食べられそうもなかったので、少しずつ食べる。

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