丑三つ時のモノたち｜リアクション

丑三つ時のモノたち

　蒸し暑い午前２時過ぎ、落合まゆらは眠れずにベッドの上でスマートフォンを見つめていた。耳にイヤホンをつけて鑑賞しているのは、ネット配信のアニメだ。夢中になっているうちにただでさえ少ない眠気が取れ、あっという間にエンディングになった時――
『それ、何を観てるの？』
（えっ！？）
　誰かに話しかけられ、まゆらは驚いて身を起こした。部屋には誰もいないし、ドアの外から聞こえてきたにしてははっきりとしていた。カーテンをめくってみたが外にも人影はない。イヤホンをしていてよく聞こえたのならスマートフォンから流れたと考えるのが妥当だが、あの時流れていたのはアニメのＥＤだ。『それ、何を観てるの？』というセリフが入っていないことをまゆらはよく知っていた。
　何より――
　彼女はその声に聞き覚えがあった。
（──これってまさか、ミスティの声……）
　ミスティは、彼女が声優を目指すきっかけとなったアニメ「魔法少女ミスティックアリア」のヒロインだ。
　咄嗟に、棚に飾っているフィギュアを見る。ミスティックアリアの全話収録Blu-ray BOXボックス購入特典の限定フィギュアだ。フィギュアはふわりと棚から浮き、等身大になるとまゆらの前に立つ。
『あなたは私に憧れてるんでしょう？　私と入れ替わったらすぐにでもミスティになれるわよ？』
「あたしが、ミスティに……？」
　ミスティに憧れて声優を目指しているまゆらのテンションが上がってくる。彼女の目が輝いたのを見てとって、ミスティは瞳を光らせる。
『私は一般人に戻りたいの。ミスティの力は私には重荷だったみたい……ねえ、取引しましょ？』
「…………」
　――夢を見てるんじゃないかと思った。
（もし夢だったとしても、憧れのミスティと入れ替われるのなら……）
　まゆらはふうわりと微笑んで、
「いいよ」
　と言った。
　直後、視線が入れ替わる。
　目の前にいるのは髪を下ろし、タンクトップとショートパンツ姿の自分だった。まゆら自身はミスティのフィギュアになったけれどてしまったが、すっかり満足した彼女は夢が冷めるまでミスティとしての時間を過ごすことにした。
「フィギュアとはいえ……これがミスティが見る世界なんだ……」
　限定というだけあって、このミスティは特別仕様で、ステッキや衣装が通常と違って輝いている。フィギュアになったまゆらは、謎のエネルギーで体が満たされていくのを感じていた。
　人形であっても、ミスティはミスティであり何も変わらない。
『あら、こちらの世界に来たのね。どう？　早速戦ってみない？』
　ミスティの隣に置いていた人気のライバルキャラが声を掛けてきた。フィギュアになったことで他のフィギュアの声も聞こえるようになったようだ。
「ええ、いいわよ」
　まゆらは普段練習しているミスティの声色を出してライバルキャラに返答した。

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