――草木も眠る丑三つ時――
『ぼたもちちゃん……ぼたもちちゃん……』
半分眠っていた『ぼたもち』は、頭の内側から響く声に目をぱちぱちさせた。彼は小鳥カフェ&ホテル『TABE=TYA=DAME』にいる鳥の中でも店長の
小鳥遊 風羽との付き合いが長いボタンインコだ。
(誰?)
『ぼくだよ……』
ぼたもちの籠に掛かっている布がふわりと捲れ、ナスカンが勝手に外れて戸が開けられる。籠の中に入ってきたのは、小さなボタンインコのぬいぐるみだった。
(え? え?)
ぬいぐるみが心に話しかけてくる。
『ぼたもちちゃん、ぼくと中身を交換しない?』
(え?)
『ぼたもちちゃんには寿命があるでしょ? ぼくにはないよ。だから、ぼくのからだになればぼたもちちゃんはいつまでもふわちゃんといっしょにいられるよ。ぼくは。寿命ができてもいいからおいしいものをたべたりふわちゃんのあたまにのったりおはなししたりしたいんだ。…………わるいとりひきじゃないとおもうけど?』
(え、あ、う……)
ぼたもちは困った。確かにぼたもちには『風羽とずっと一緒にいたい』という願いがあったのだ。
「そ、そんなことさせないよ!」
「ぼたもちちゃんはぼたもちちゃんだピー!」
「ぬいぐるみちゃんこわいピー!」
話はぼたもち以外にも聞こえていたらしい。他の鳥達がぴーぴーぴーぴやっと鳴き始めた。
「ふわちゃんに知らせるピー! 起こすピー!」
鳥達が騒ぐ中、棚からぼたもちの話にぼたもちは1羽迷っていた。
(ど、どうしよう……)
∞
そして、寝子島の至る所で似たようなことが起きていた。
ある者はこけしに。
ある者は抱き枕に。
ある者は日本人形に。
ある者は道端に植えられた樹木に――ありとあらゆるモノに話しかけられる。取引を持ち掛けられる。
キミノネガイヲカナエテアアゲル。ダカラソノカラダ――チョウダイ?
と。
モノには全て魂が宿っているという。
アナタの近くには、アナタをじっと見ているモノがいる。
モノは、アナタの全てを知っている。
生きた体の欲しいモノ達は、時に本体から離れてアナタの望む『人物』に変身して体の交換を提案してくる。望むものをあげると言ってくる。
そのコトバに、アナタは抗えますか?
今回もよろしくお願いします。沢樹一海です。
7月の始め、夏の始まりのちょっとした怪談です。
丑三つ時に、モノに魂が宿ります。
モノは人間と入れ替わりたいという欲求を持ち、時には人間を騙して入れ替わるため、その人間の望む人物になりすますこともできます。
取引を受け入れると、人間はモノになってしまいます。
モノの魂について
丑三つ時――午前2時から午前2時半まで、モノの魂は闇の心に支配され、本来の人格ならぬモノ格を失っています。2時半を過ぎると元に戻ります。
2時半までにモノの提案を受け入れてしまうと、
魂は入れ替わってしまいます。
モノのアクションについて
モノは超能力が使えます。(たとえば布を浮遊させたりナスカンを持ち上げたり)
モノは変身できます。(たとえばPCが目標としている人物等。変身できるのは誘いをかけてくるモノだけで、入れ替わった後のPCが変身能力を使うことはできません)
モノの魂はPCではなくNPC扱いとなります。アドリブが入る可能性もありますのでそこはご了承ください。(PCの身体に入り込んだモノの魂も、NPC扱いとなります)
モノの魂が変身できないもの
未参加のPC、沢樹NPC以外のマスターNPCには変身できません。
参加PCへの変身は可能ですが、その場合該当PCのPLに許可を取り、許可があることを双方のアクションにご記入ください。
人に変身することはあれど、モノはモノです。
入れ替わった後にPCの体となるのはあくまでもそのモノの体です。
NPCについて
・鳥達が騒いだことで起きた小鳥遊 風羽は、ろっこんの能力により事情を知ります。特に説得等はせず、ぼたもちを見守ります。ですが、「どうしましょう~」とは思っているようで、スマホを使って、「ぬいぐるみがぼたもちに~」とだけ呟きました。それを見て、PCは何があったのかと小鳥カフェ&ホテル『TABE=TYA=DAME』に駆け付けることができます。
以上になります。よろしくお願いいたします。