朝、目が覚めて｜リアクション

朝、目が覚めて

　みんなは突然の猫来訪に、閉じ込められてることも忘れてにっこりほくほく。なでなでしまくり。いやされまくり。
「かわいい猫だなあ」
「ずっとここにいてもいいよ～」
「食べるわけないよねえ？」
　キャラクターが猫を食べ出したら、いろんな意味でらっかみ！は終了だ。
　猫は愛でるのが一番。猫を愛でれば、解決の糸口が見つかる。そんならっかみ！であってほしい。
　ほらっ。

　ギイイイ。

　猫をなでなでしたからだろうか、扉がひとつ、勝手にあいた。
　浮かれ気分で猫をなでていた一同が、ピタッと動きをとめて、その扉の向こうを見る。
　真っ暗で、どこか異様な雰囲気を感じてしまう。
　刀の目つきが変わり、いつの間にか手には刃引き刀。この武器とろっこんがあれば、なんとかなるだろう。
「脱出するぞ」
　静かに立ち上がり、ついてこいとばかりに背中で語る男。
　ただ、スク水が背中にびよーんと引っかかったままで少しマヌケなのが玉にきずだ。
　みんなは刀のあとについていくことにした。
　暗い通路を進むと、修に抱っこされた夏朝猫がピクッと反応する。
「気をつけてくれ。この先に何かいるのかもしれない」
　と、足元を何かがちょこちょこと走りぬける。
「きゃあー！　ゴキブリ！？」
　碧南は思わず蒼留人に抱きついた。
「お、おう。大丈夫だよ」
　ムッツリ精神を心の奥底に隠し持つ男、蒼留人は女性、しかもスク水姿の碧南からの接触にドギマギ。
「へえ……」
　かようはその様子をしらーっと見ていた。
　この通路は、先程までの近代的な部屋とは打って変わって古い石造りだった。
　ゲームにくわしい流がつぶやく。
「中世ヨーロッパが舞台のファンタジーって感じだね」
「ニャハローズスって、ゲーム好きな設定だったっけー？」
　かようが流をじろじろのぞいているが、誰も相手にしない。
「酒場で依頼を受けちゃったりするのかな？」
　まだゴキブリを警戒して蒼留人の袖を握っている碧南が、努めて明るく振る舞う。
　ドン。
「あいたっ。何かにぶつかった！　ゴキブリ！？」
「バカ言うな、俺が止まっただけだ」
　先頭の刀は、先程から同じところをぐるぐるまわってることに気がついたという。
　まさに迷宮。このまま歩いていても埒があかないだろう。
　そんなときに、通路の奥に何かを見て警戒をしている。
「まさかとは思うがな……流、あれをどう見る？」
　通路の奥はいつの間にか屋外になっていて、一軒の建物がある。外にはランタンがぶらさがっていて、馬のようなモンスターが何頭か繋がれている。そしていかにも冒険者といった出で立ちの男がふらっとやってきて、中へ入っていった。
「あれはどう見ても、ファンタジーゲームの定番……酒場だね」
　刀は頷きながら、今酒場に入っていった冒険者の横顔を思い出していた。
（あいつたしか……）

　カランカラーン。

　酒場に入ってきた冒険者の客、それは新田亮だった。
　亮は常連なのだろうか、無骨なマスターにも気さくに声をかける。
「マスターおはよう。朝の仕込み手伝おうか？」
　腕の筋肉がその辺の人間の胴くらいありそうな巨漢マスターは、酒樽をドンッと置くと、亮に顔を寄せた。
「待ってたぜ。お前さんなら任せられる。ただし仕込みじゃない」
「？」
　マスターは壁をビシッと指差した。
「あれだ」
　壁には大きな穴がドドーンとあいていた。
「なんだありゃ。この店、営業してる場合じゃねえだを」
「朝がきたら、営業するしかないだろう。お前みたいな変わり者の客が来るんだからな」
「あそこ、屋根が傾いてるぜ？　大丈夫かよ……」
　マスターの説明によると、最近夜中に誰かが下水道に引き込まれるとか壁に穴をあけるとか物騒な話がいっぱいで、どうやらモンスターか何かが潜んでいるようだ。倒さなければこの店に、いやこの町に平穏は訪れないだろう。
「仕方ないな、俺がいくよ」
　亮は飲み物をグビッと飲み干すと、カウンターにトンと置いた。
「悪いな、亮。お代はモンスターを退治したあとでいいよ」
「ふんっ。それまでこの店が残ってればな」
　こうして亮は店を出た。

　その様子を遠くで見ていた刀たち。
　修の頭には、再びあのアナウンスが聞こえてきていた。

『ただいまファンタジーっぽい世界の酒場に“こわい警報”が出ました。“こわい警報”が出ました。地震・雷・火事・オヤジに気をつけてください。地震・雷・火事・オヤジに気をつけてください』

　地震と雷はもう出たから、次は火事とオヤジか。
　修は警戒を強めたが、ぐるぐるまわる迷宮からはそうそう抜け出せない。
　そうこうしているうちに、メラメラメラ。既に酒場は燃え始めていた。

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朝、目が覚めて

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