朝、目が覚めて｜リアクション

朝、目が覚めて

　先ほどの地震はただの地震ではなく、寝子島では大変な地殻変動が起きたようだ。
　透明なふわふわ瑠奈は、ふわふわと彷徨ってるうちにフシギな建物の中にまぎれこんでしまった。

「うわあああああああああ」

　と叫んだのは、瑠奈ではない。
　悪夢でも見たのか、うなされて目を覚ましてガバッと顔を上げたのは、水守流だ。
　服装は気づいたらスク水……ではなく、白いローブみたいな服を着ていた。
「ど、どういうこと？」
　周りを見渡してみると、真っ白な壁の真っ白な部屋。ちゃぶ台がひとつ、鍋がひとつ。タンスがひとつ。
　そして人間もいる。立ったり座ったり姿勢はバラバラだが、みんな眠っているように見える。
「この部屋、なんだろう？」
　流は誰にということもなく声をかけてみるが、反応はない。
「もしかして、閉じ込められたのかな？」
　反応はない。
　流はゆっくりと部屋の中を見て回る。何の変哲もない白い壁。
　四隅には扉がある。閉じ込められたというわけでもないようだ。
「出ていいのかなー？」
　独り言を装いつつ、それとなく他の人の返事を待ってみる。
「出ていいよねー。別にね～」
　反応はない。
「そりゃあ扉があるんだから、出ていいんだよねー」
　自分に言い聞かせるように繰り返すと、ついに扉をそーっとあけ――

「あかない！」

　隣の扉も、あかない。
　すべて、あかない。
　やっぱり閉じ込められたのか……。
　流は寝ている人たちに助けを求める。
「お、起きてくれー！」
「な、なんだ？　どうした？」
　真っ先に起きたのは、御剣刀だった。
　流は刀の問いに答えるが、自分でもわかってないので見たまんまを話すだけというマヌケな説明に終始せざるを得なかった。
「つまり朝目が覚めたら、どこだかわからないこの部屋に閉じ込められたということか……」
「そうなんだよー！」
「なるほど、何を言っているのか分からないな。また神魂か？　神魂だろうな。神魂よ……いい加減にしろよ！」
「え！」
　刀が天井に向かって言うものだから、その辺りをふわふわしてた瑠奈はビックリした。
　とにかく百戦錬磨の刀にとっても、この状況はカオス過ぎて理解不能ということだ。
「とにかくみんな、がんばれ～」
　ふわふわ瑠奈は応援してくれているが、何ができるわけでもない。
　御剣刀は、いつの間にか手に愛用の刃引き刀が握られていることに気がついた。
　――この手で、この刃引き刀で、事態を打開するしかないのだろう。
　静かに立ち上がると、覚悟を決める。
「待って。もしかしたら、ここ……最近やったゲームの一場面かもしれない」
　そういう舞台設定のゲームがあったという。
　たまたま状況が似てるだけとも言える、突拍子もない話である。
「やっぱり関係ないかな」
　流がこの話はなかったことにと言うが、刀は考え込んでいる。
「朝目覚めたらゲームの中ということか……大いにあり得るな」
「そう？　でも、だとしたらもう俺たちは……」
　流は一人で天井を見上げて、あぁと嘆いている。
「どういうことだ？」
　流の解説によると、ここは失敗確定のエンディング・ルームだという。
　この部屋から抜け出す唯一のチャンスは鍋に入ったものをすべて食べることだが、毒入りスープが定番で、つまりここから脱出できた者はいないのだ。
　刀は一瞬ひるむが、伊達に数多の経験を積んできたわけじゃない。
「ふん、ちょうどいい。腹が減ってたところだ。できれば焼肉が食べたかったが、ま、なんでも喰ってやる」
　なんて強がりながら、ちゃぶ台の前にどっかと腰掛ける。
　流もあきらめて、座り込んだその時――

　バーン！
　
　と大きな音がして、扉のひとつがあいた。
「あくんじゃねえか！」