朝、目が覚めて｜リアクション

朝、目が覚めて

　気がつけば、寝子島は平穏を取り戻していた。
　瑠奈はほっと一息……とはいかず、寝子島のよくない未来がビビビッと見えてしまった。
　このままただみんなを見ていればいいのだろうか。いや、そんなわけはない。体が透明で何もできないなら、せめて、せめてみんなを応援したい。そう考えるのだった。

　さて、寝子高に登校している生徒たちの中には、見慣れた顔もちらほらり。
　男女で仲良く歩いている二人の会話を聞いてみよう。
「ねえねえ、私気づいちゃったんだ。焼肉のたれって最強だよね！」
　料理に興味のある女子のようだ。
「ああ、たしかに焼肉用に長年研究されているから、市販のものとはいえ肉のうま味を的確に引き出せるよな」
　冷静な分析が得意な男子のようだ。
「うんうん。プリンとかジュレとか、お菓子にかけたら美味しそうじゃない？」
　料理のセンスが危うい女子のようだ。
「そ、それはさすがに……い、いや、悪くないという可能性も確かにあるかもしれない、ということは言えるかもしれないな」
　この女子を傷つけたくないと同時に嘘もつきたくない男子のようだ。
　うん、七夜あおいと八神修ですね。
　というわけで、二人が他愛もない会話を楽しみながら歩いている、その時だった――

『ピンポンパンポーン！』

　修の脳裏にだけ鳴り響く、謎のかわいい声。瑠奈だ。
「誰だ？　聞き覚えがあるような……」
「どうしたの？　もしかして焼肉のたれ忘れた？」
　周囲の人も気づいてないようで、どうやらこのアナウンス、警戒心の強い修にしか聞こえてないようだ。

『ただいま寝子島に“こわい警報”が出ました。“こわい警報”が出ました。地震・雷・火事・オヤジに気をつけてください。地震・雷・火事・オヤジに気をつけてください』

　修は思わず噴き出した。
　なんちゅう警報だ。地震、雷、火事、オヤジ？　バカバカしいな、まったく。なんてことを思っていると、あおいが先に異変に気がついた。
「大変！　まわりに焼肉のたれが！」
「なっ？」
　見れば自分たちのまわりに、所狭しと焼肉のたれの瓶が並んでいる。
　塀の上にも、路上に停められた車の上にも、ごろりと寝転んでる猫の上にも、とにかく焼肉のたれがいっぱいだ。
「こんなにいっぱいあったら、いろんな料理に使えるね♪」
　あおいはやはりお気楽に嬉しそうにしてる。最近ののこっぽくなってきてないか？
「ああ、でもこんなに瓶があったら、倒れたときに……ハッ。まさか」

　グラグラグラグラ……

　焼肉のたれがぐらんぐらん揺れ始めた。
「こ、こわい警報は本当だと言うのか！」
　神経が砥がれる感覚。修の頭によぎるのは、あおいだけ。
（あおいだけは何があっても守らねば！）
　慌ててあおいの肩を抱き寄せて守る修だったが、一番こわかったのは地震の後である。
　気がつけば、修が必死に守ったはずのあおいはあおいではなく、焼肉のたれの瓶だったのだ。
「割れなくてよかったね」
　とにっこり微笑むあおい。
　あおいを守れなかったショックを感じつつ、でも怪我してなさそうなので安堵もしつつ、後生大事に抱えてる焼肉のたれが謎過ぎて、
（たしかに、こわいな）
　と“こわい警報”の恐ろしさを思い知るのだった。
　これから、もっとこわいことが起こるのだろうか……。