フツウ迷宮を突破せよ｜リアクション

フツウ迷宮を突破せよ

水上桜はふと足を止めた。見慣れているはずの通学路の風景が少しどころではなく変容していたのだ。
「なんだか、フツウじゃない予感が」
　真っ直ぐに続いているはずの道が少し先で五叉路になっていたり、無意味なアンダーがあったり、吊り橋のような歩道橋があったり。目を疑いたくなる光景だ。
　しかしながら、学校へ向かわなければ遅刻してしまう。戻ろうにも、元来た道さえ様変わりだ。強行突破しかない。
「ほんと、どうにかしてほしいわ、フツウを！」
　自分に言い聞かせるように言って、桜は歩き出した。
　その矢先、背後で妙な物音が。
　振り返ってみると、
「！」
そこらにあった郵便ポストや薬局前のカエル人形、信号機などが桜目がけて殺到してくるではないか。
「いや……何これーっ」
　桜は走るスピードを上げる。
　道は蛇行したり、坂になっていたり、右へ左へ道が分岐している。まさに迷宮だ。
　それ故、どこをどう逃げればいいのかわからない。闇雲に逃げ回っても、ループしているかもしれない。しかし、立ち止まるわけにもいかない。
「水泳部嘗めないでよね！」
　体力にはそれなりに自信がある。だが、このまま長引けば疲れが出るだろう。
「何か武器……ってあるわけないか」
　桜は前方へ視線を向けた。
「あれだっ」
　道の端に立つ道路標識を見つけ、駆け寄った。標識に触れて、ろっこん、金属粘土を発動させる。
　桜は後ろを振り返った。
「もう少し」
　金属粘土の効果が発揮されるまでは約一分かかってしまう。後、十秒と言うところで、カエル人形が突っ込んできた。
「！」
　桜は手を離さないようにしゃがんで、体当たりを交わす。
　次に襲ってきたのはポストだった。
　ポストが自分の口から葉書やら封筒やらを次々と放ってきたのだ。まるで刃物のように桜の周りの地面や壁に突き刺さる。
「ちょっ、誰かの手紙に何てことを」
　そして、鋭利な刃物と化した葉書が、桜に迫る。
「もう遅いわよっ」
　桜はバット状に加工した武器で葉書を打ち落とす。ガキンッという金属音がした。それを片手で回転させ、自分を囲むカエルとポストを交互に見る。
「さぁ、どこからでもかかってこーいっ」
　懲りずに同じ攻撃をしてくるポスト、その葉書を打ち落とし、襲いかかってくるカエルの脳天にバットを振り下ろして、地面にめり込んだところを片足で踏みつける。
「一匹目っ」
　動かなくなったところで、ポストへと距離を詰めた。
「たああぁっ」
　力の限りスイング。金属が凹む音がして、ポストは横に倒れ込んだ。
「さて。大ボスは？」
　現れたのは信号機だった。青、黄色、赤の順に点滅させている。
「勝負っ」
　信号機の青の部分の点滅が早くなってきた。そして、次の瞬間。
「え！？」
　青の部分から光線が放たれたのだ。高温で地面を切り裂き、桜の前で止まる。
「ビーム！？」
　桜はそれを避けながら、信号機の隙を伺う。
「っ、調子に乗って！」
　桜は信号機へ向かって駆け出した。足元へ逃げ込んで、相手の視界から消える作戦だ。そして案の定、信号機がおろおろし始める。
　恐らく、強い衝撃で動かなくなるに違いない。
「これで、とどめっ」
　桜は大きく振りかぶって、信号機の根元を思い切りぶっ叩いた。すると動きを止め、ばったりとその場に倒れてしまった。
「よしっ」
　見ると、信号機は光の粒子となって空気に消え、一瞬視界がブレたかと思うと、見慣れた風景が広がっていた。どうやら寝子島へ帰りつけたらしい。
　そして非情な現実──遅刻寸前であることを知り、全力疾走するのだった。

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