フツウ迷宮を突破せよ｜リアクション

フツウ迷宮を突破せよ

その日、御剣刀は習慣である早朝の修行を終えて朝飯を食べ、ランニングしながら登校することにした。
　距離はあるが、ある程度余裕を見て家を出ているから遅刻はないだろう。
参道商店街から寝子島街道まで出て、そこから寝子ヶ浜交番まで一直線、交番で曲がって寝子高へ向かうルートだ。
「ここ走ると気持ちいいんだよな。今日も一日頑張ろう」
　しかし、
「ん！？」
　走りながら気づいた。
「……この道こんな感じじゃなかったよな？」
　辺りに民家はなくなっていて、塀が右へ左へ、細い道を作り、巨大迷路がずっと先まで
続いている。
「工事したって話も聞かないし何だこれ」
　そう呟いてから、はっとした。
「また神魂か！？　いい加減にしろよ！　これ下手したら遅刻するだろうがっ、
鬼熊怖いんだぞ！　バカタコ怒られるんだぞ！」
　それでもきっと、迷宮を抜けなければ元の場所には戻れないなのだろう。
「はい、文句言ったらスッキリしました。出口目指して頑張ります」
　刀は迷宮に突入した。
「えーっとこういう迷路を脱出する時は左手を壁に当てて進むといいんだっけ？」
　迷路の壁に手を当てて、滑らせる。
　急いだほうが良いだろう、小走りに進み始めると、すぐに交差点に出た。
「あれ？」
　広い通りに出たのだ。運よく迷宮をぬけたのだろうか？　しかし、交差点の向こうには再び細い迷路が続いている。
「ここじゃない。どこだ！？」
　交差点の塀に沿って歩き、さらに進む。しかし、
「ん？」
　背後で妙な音がし始めた。
　後ろを振り返ると、交差点にあった信号機、自転車、バイクに車などが追いかけてくるではないか。
「反則だろ。無理無理、全力で逃げる！　もう走り回って出口目指すしかない！」
　塀に当てた手は意地でも離さない、と思った矢先である。
「どわっ」
　ぬるっとした感触に思わず手を離してしまった。
「なんだ、今のは！　今のはっ」
　手を確認するが、何かぬめぬめしたものがくっついた。
「気色悪っ」
　動揺して手を離した上に、塀から離れてしまった。
「くそ、何かないのか？　何か」
　必死でカバンの中を探る。
　そうこうしているうちに、バイクに並ばれた。
　耳障りな音が聞こえ、次の瞬間、ドリフトをかましてきた。
「だああっ、殺す気かっ」
　ぎりぎりで避けて、角を曲がる。
「これだ！」
　カバンから取り出したのはペンだった。電柱とか壁に進む方向への矢印を付けながら進めば同じ場所に戻って来た時反対に行けばいい。
　追いつかれないよう、なるべく右へ左へ。直線の道に入らないように気を付ける。
「よーし、出口に近づいている気がする」
　そう確信した時である。
　前方の角から青色を点滅させた信号機が現れた。
「そうでもなかったぁっ」
　慌てて、手前の角を曲がる。
　しかし、そこは行き止まり。
「うぐっ」
　振り返ると、信号機が近づいてくる。
「ち、遅刻待ったなし、か！？」
　追い詰められ、一歩後退。背中に塀がついた。それと同時に、手に触れるものが。
「ん？」
　横目で見ると、それは赤いボタンだった。不自然に塀から突き出ていた。
　刀はごくりと息を飲み込んだ。
　正体不明のボタンだが。
「えーい、なんか押した方がいい気がするっ」
　躊躇いなく、拳でプッシュした。
　その瞬間、視界がホワイトアウトし、
「うをー！？」
　見慣れた学校の正門の前に立っていた。
「あれ？」
　慌てて時刻を確認する。
「遅刻じゃない？　たっ助かった～～」

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