【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

　この時間のロープウェイは初めてだな、そういえば私もだー、なんて乗り物の中でも会話を楽しみながら、
時折夜の九夜山に提灯の光が揺れる様を一緒に窓から見下ろして。
　いよいよお散歩開始。となれば、当然１つの提灯の柄を二人で持つわけで。
　腕同士は触れあい、体も密着する程に近い。
　冷静を保っている八神修でも、鼓動までは正直に鳴らす他ない。
　心拍数が上がるのを意識していたらば、ふと七夜あおいの横顔もほんのり色づいている……ような？

「プールでも思ったけど、こういう淡い光に照らされてる修くんの顔、
　一瞬知らない男のヒトみたいに見えて。ちょっぴりドキドキするね」

　修の脳が全速力で思考巡らす瞬間である。
　全く知らぬ異性相手な緊張でドキドキするのか、
　ずっと仲の良い友達と思っていた相手が改めて男なのだと意識したのか、
　どちらだ。

「修君、」
「あおい、」

　微かな間に、どうしたのか問いかけようと下から修を覗き込んできたあおいと、
　思わず本人に聞きそうになって零れた呼び掛けにて、彼女へ向き直ろうとした修が、
　互いの吐息を感じる程に近距離で、同時に相手の名前を呼べばぱっちりと目と目が合った。
　…………
　数秒後、ふはっ。
　何だか可笑しくなって、また同時に笑い声が重なった。

「ゆっくり巡ろうか」
「うん」
「夜の山、怖くないか？」
「一人なら怖いかもだけど、修くんいるから。お星さま見えないのは、ちょっと残念だけど」
「星ならもしかしたらー……ああ、よかったあった」
「え？」

　歩き出した先で、修は目に留めた花をあおいが見える位置まで先導してやる。
　暗い葉と葉の間に、提灯の光受けて浮き上がるは白い花。

「わー！　お星さまみたいな形だね。周りもレースみたいになってて、可愛い！」
「カラスウリの花だよ。夜にしか咲かないんだ」

　あおいが願ったから出てきてくれたのかな、なんて話ながらふとコースに戻ろうとした足が止まった。
　花に気を取られていたら、いつの間にやら順路から外れたらしい。
　すぐ戻れると思うが……あおいがまだ気付いていないなら、余計な不安を起こさせない方がいいだろうか。
　言ったとて、一緒だから大丈夫だよと笑顔で答えてくれそうな気もするけれど。それならそれで嬉しいし。
　考えを巡らしていた修の瞳が、降りてきた雲に気付いた。

「修くん！　雲だよ雲！」
「ああ、どうやら案内してくれるのかな？」
「乗っていいってことかな！」

　雲が翼の生えた猫の形をとれば、増々瞳輝かせたあおいを温かい眼差しで見つめてから。
　思ったより大きなその雲を、二人でお互いに提灯落とさぬよう手を貸し合いながら、よじ登った。
　猫雲は二人を乗せて、ゆっくりと昇って行く。

「天の川見えたよ！　すごーい！」
「随分上がったなぁ、雲の上まできた。ちょっとした夜間飛行だな」
「ね、ね、ここならお願い事叶うかな」
「こんなに近くに見えるなら、きっと叶うさ」
「あ。でも短冊にもかけてるし、欲張りかなぁ……」

　満天の星空のすぐそばで、真面目に考え出すその姿がキラキラして見えた。
　美しいな……あおいがいるこの景色全てが。
　星灯りが映し出す光景を、一生忘れないと心に誓った修がいるのだった。