【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

　暗闇に一つの提灯を握り合う。
　ムードは満点。これで晴れていればもっと素敵だったのになぁ、と時々上空見上げる初瀬川理緒の隣りでは、提灯以上に理緒の腕をしっかり絡め握っている佐和崎紗月の姿。
　人が多いよりはこういう場所の方が、なんて思ったけれど。
　なるべく早足で屋台通りを抜けてきて。
　ちょうちん散歩の字を目にしては、紗月はこういうのが好きそうかなと参加を決めたわけだったが。
　――　迷っちゃったらそりゃ怖いよねぇ。
　寄り添い微笑んでいた紗月の表情が、今やすっかり怯え切って理緒にしがみつく勢いである。
　ちゃんと竹燈籠の灯りを確認して進んでいたはずなのが、どうにもコースを逸れてしまったのか、一向に次の道標が見当たらず。
　そんな迷子中な二人のすぐ頭の上にも、雲はヨシキタとばかりに降りて来る。

「え！？　なにこの雲っ」
「りり、理緒ちゃん……大丈夫？」

　突然自分たちの目の前に、明らかに意志がありそうな雲がふよふよやって来れば、紗月の怯える反応が普通というものだが。
　好奇心の方が強かったらしい理緒、紗月を促すようにゆっくりと雲の方へ足を近づけてみる。
　すると今度は、その雲がもくもく動いたかと思えば真っ白な猫の形を取る様子に、理緒の好奇心メーターは
　ＭＡＸに。
　猫の手が風に吹かれ、それがまるで『さぁ、乗るニャ』と誘われてるように理緒の目には映った。
　こういう時、決して物怖じしたりしない理緒の性格をよく理解する紗月、理緒の次の行動が読めたように慌てて彼女の足取りに合わせる。
　その瞬間、理緒が雲に手をかけて猫の背に飛び乗った。

「わぁ！　モコモコして気持ちいい！」
「ま、待って理緒ちゃんーっ」
「ほら紗月、ここに足をかけて」

　紗月も雲へと乗り込んだのを見越したように、猫雲は宙を駆けるようにしてぐんぐん空へと昇っていく。
　夜の空を覆っていた雲の塊たちを抜けた瞬間、二人の口から同時に感嘆の声が漏れた。
　遮る物が何一つない夜空が一面に広がって。
　天の川をはじめ、夏の夜空彩る星座たちが二人をお出迎えしてくれたのだ。
　地上と違い、星々のみが見守る中最愛の人と二人きり。
　途中まで戦々恐々としていた紗月も、小さな歓迎の光たちに目を奪われとても楽しそうな笑顔である。
　――　ここだと、すごく……理緒ちゃんが近い気もする。
　星の瞬きと時折吹く風のみで、静寂に包まれた星空の中は彼女の存在感を一層感じる気がして、紗月は幸せそうに微笑んだ。
　理緒にとっても、何より紗月が笑顔で隣りに居てくれることが嬉しくて。
　二人は一度視線交わらせた後、頷くように互いに瞳を閉じる。
　――　紗月とこれからも一緒にいられますように。
　――　これからもふたりがともにありますように。
　星に願いを。
　それは口に出すことなどしなくとも、きっと同じことを想っていると信じ合う二つの願い。