呪いの魔剣｜リアクション

呪いの魔剣

「おいおい。人がバイトを終えて漸く帰れるって時に。またこの手の異変か？　この間も似たようなのがあったが何か原因でもあるのか？」

　如月庚は星ヶ丘にあるクラブでのウェイターのバイトを終え、バイクに乗ってさて帰ろうかというところであった。
　だが、どうやら本日の庚の営業はまだ終わりではないらしい。但し、営業相手は人間ではないようだが。

「紅い三日月か。この間と似たような件ならばネットに何か情報でも載っているかもしれないな」

　そうして、スマートフォンを取り出した庚がねこったー等を確認していると、どこからか妙な音が聞こえる。金属が触れ合うようなそんな音が。

「……ふん。どうやら向こうからのお出ましか」

　情報を集める時間はそう多くはなかったが、それでもこの僅かな時間でそれなりの情報を集める事に庚は成功していた。
　相手は黒い剣の化け物。持つ部分から虫のような脚が生えていて、柄には結構大き目の眼球がついている。

　注意しなければならないのは黒い靄を纏うと衝撃波のようなもので攻撃してきたり、黒い腕を伸ばして捕まえようとしてきたりするというところだ。
　衝撃波の方がそれそのものは見えないが、地面を砕きながら進むらしいので視認する事は可能との事。

「遠距離攻撃有りってのは厄介だな」

　情報としてはこの程度のものだが、攻撃に関しては実際に見てみないと解らないところもある。ならば、最初は相手の能力を見極める事に集中するのが正解だろうと庚は判断する。
　その動きは自然に。八極拳に近い構えを庚は取った。とは言えども、喧嘩殺法交じりの我流に近いものではあるのだが。

（切り札は相手の能力を丸裸にしてからだな）

　そんな事を考えていると、早速剣の化け物が動き出す。黒い靄が剣全体から噴き出したかと思えば、剣の部分だけが何かを斬るような動作をした。

「これが、そうかっ！」

　地面を砕いて進む衝撃波。庚が避けた後に壁を砕いたところを見るに、威力としてはかなりのもの。ただ、直線的という事もあって避けるのはそこまで難しくはないと庚は思えた。
　それに発生前後はかなり隙があるようにも見える。

「ふっ！」

　あまり深く踏み込まないようにしつつ庚は拳と蹴りによる打撃で攻撃を試みる。
　すると、流石にやられたままでいるわけはなく、剣の化け物も攻撃を受けてからの斬撃といったカウンターを返してきた。その動きそのものは中々鋭いと言えるだろう。

（ふむ。普段の動きは中々か。それとやはり剣だけあって硬いな……）

　だが、異常なまでの硬さというわけではない。あくまでも剣としての範疇の硬さだ。ならば庚からすれば何も問題はなかった。

（次、あの黒い靄を纏った時。ろっこんを発動させて決める！）

　力強い決意と共に庚が纏う気配も変化する。それを感じ取った剣の化け物もまた殺気を放ち、そして黒い靄を纏い始める。

「遅いっ！」

　青にして蒼穹発動。そして、額の傷跡をなぞれば庚の全身が蒼く輝く光を纏う。
　衝撃波を放とうとする剣の化け物だが、しかし、その前にその刀身に庚の拳が届いた。纏っていた黒い靄は庚の蒼い輝きに掻き消され、拳はそのまま振り抜かれる。
　刀身が砕け散る剣の化け物の眼球は、それを信じれないと言っているかのようであった。

「はっ、他愛ねぇ」

　相棒がいればもっと楽が出来たと庚は考えるが、いなくても負ける事はない。それだけの自負を持つだけの場数が踏んでいるのだ。

（それにしても前回遭遇した獣は霧に変化。今回の魔剣は靄を纏う。といった水蒸気の自然現状が共通点であると考える。……だからなんだって訳じゃあないが、その辺の伝承、少し調べてみるか……）