呪いの魔剣｜リアクション

呪いの魔剣

「へぇ。これがねこったーに出ていた例の魔剣か」

　とある日の夜。サキリ・デイジーカッターは外へと出て何かを探すかのように歩いていた。
　ただの散歩というわけではない。ねこったーにて異変が起きているとの情報を見つけて、その異変の元凶を討伐する為だ。

「うん、今まで様々な敵と戦ってきたけど魔剣の方から会いに来てくれたのは初めてだね。光栄に思うよ。キモ可愛い系な造形も悪くないね」

　血走った眼球に脚が生えた黒い剣。果たしてそんな造形の剣はキモ可愛いという範疇内なのかどうかは議論を呼びそうである。
　だが、サキリからすれば少なくとも範疇内なのだろう。但し、楽しい戦いが出来るかもしれないと少しテンションが上がっているが故の言葉である可能性もあるのだが。

「さて、こうして戦えるのは嬉しいけどろっこんを授かったもれいびとして寝子島のフツウを守るのが僕の仕事だ。その務めを果たすよ」

　空気を切る2本のナイフ。音もなく抜き放ったそれはサキリの使い慣れた武器であった。それを構える彼の姿はまるで敵を倒す為だけに存在しているかのようですらある。
　サキリはねこったーにてこの魔剣に関する情報は既に収集済みであった。

（特殊な攻撃方法は2つ）

　それは衝撃波による攻撃と黒い腕を伸ばす事で相手を捕まえるというものだ。
　まず、衝撃波の攻撃は直線であるらしい。ならば、敵を中心とした円の動きで更に緩急をつける事で対処可能だとサキリは判断していた。
　サキリとしてはこの攻撃は可能な限り無駄をなくす為に、紙一重の距離で躱す事が理想だと考えている。

　もう1つの黒い霧の腕に対しては、何かしらの物で振り払ったりする事が出来るらしい。
　つまりサキリの場合、2本のナイフで切り払えば問題ないという事になる。

　問題は剣本体だ。形状としてはロングソードと言われるもので、当然ながらサキリの持つナイフよりも長い。つまりそれは攻撃範囲が向こうの方が広いという事を指している。
　だから、迂闊に間合いには入らず、能力使用後の隙を突きたいところではあった。

「ここっ」

　迫りくる衝撃波を紙一重ですれ違うように避ける。そのままの勢いでろっこんを発動。
　相手の間合いの内側に入り込んだ瞬間にナイフを赤光化させ、その場で回転して剣の化け物を切り刻む。

「よし。……っ！？」

　剣の化け物が動かなくなったのを確認。したところで、全くの別方向から衝撃波がサキリへと向かって来た。
　それを飛ぶようにして避けたところで、衝撃波が来た方向を確認すると、先程まで相手していた剣の化け物に似た存在がそこにはいた。

　確かにねこったーを確認した限りでは、この魔剣は1体ではないようだったがまさか即別の個体が現れるとはサキリは思ってもいなかった。
　そう。思ってもいなかった事が起こり、サキリは――それは残忍な笑みを浮かべた。歓喜したのだ。

「あははははははっ！　まさかおかわりまで用意してくれるとは！　感激だね、素敵だね！」

　2本のナイフを弄ぶ。それは本当に良いおもちゃを見つけてはしゃぐ幼子のようで。
　待ちきれないとばかりにろっこんを発動させ、2体目の剣の化け物へと瞬間移動で切りかかる。

　だが、まるでそんなサキリの気配に当てられたかのように次々と呪われた魔剣が姿を現す。まるで同類を見つけたとでも言うかのように。
　衝撃破が地面を抉り、夜の闇を裂くように暗き腕が宙を浮かぶ。だが、それらの隙間を縫うようにサキリが舞う。

　衝撃波。回避。触腕。攪乱して離脱。
　それは正しく縦横無尽というのが相応しい有様だ。鋼鉄をも切り裂く2本の赤刃が夜の闇に閃き、魔剣を切って捨てる。
　その死の舞踏が終わるまでには、今暫くの時間が必要だろう。

このページにイラストを設定する