呪いの魔剣｜リアクション

呪いの魔剣

「あら～、何かビンビンに気配を感じると思ったら変なのがいるわねぇ」

　尾鎌蛇那伊は身体で敵とぶつかり合う事に強い興味を持つ、言わばバトルジャンキーといった性質を持っている。
　それ故にか、その敵と戦える機会。怪奇が関わる事件に対する嗅覚は人よりも優れていた。
　本日も妙に感覚が昂ぶり、何かが起るような気がして出歩いてみればこの通り、明らかに怪異のモノと思わしき存在と巡り合ったのだ。

「ふぅん。剣、というか魔剣とかそういう類かしら？　随分と殺気立ってるじゃない。無機物なら容赦は一切要らなくていいわ～」

　出会った瞬間から目の前の剣の化け物から迸る殺気に蛇那伊は当然気付いている。それだけではない。どうにもこびり付いたかのような血の匂いすらも感じていた。
　既に蛇那伊の意識はこの剣の化け物との戦いに集中している。既に呼吸を整えて、体内で気を練り始めているのだ。そして、十分に練られた気は全身を巡り蛇那伊の身体を戦闘に適した状態へと変化させていく。

　蛇那伊が準備万端なのを察したというわけではないのだろうが、剣の化け物がタイミング良く動く。
　剣の化け物から黒い靄が現れたかと思えば縦の斬撃。その動きだけを表せばそうなのだが、まだ蛇那伊と剣の化け物の距離は遠い。だから、それは意味がない行動である筈だったが、結果は違う。

　蛇那伊へと地面を切り裂きながら何かが突き進んでくる。一点を見ずに全体を見る視覚によってそれを素早く察知した蛇那伊は身体をズラす事でそれを避けた。
　全体を俯瞰したような空間把握能力。それと練られた気によって研ぎ澄まされた五感によるセンサーは相手の動きを素早く感知する。

　どうやら今の攻撃は衝撃波のようなものなのだろうと蛇那伊は察した。衝撃波そのものは不可視だが、その軌道そのものは地面を切り裂きながら進むという性質上把握は容易だ。これが地面を介さないものであったならば対応はもう少し難しかった事だろう。

「さて、と。相手が剣なら戦い方は対刃物戦ね」

　そう。今の衝撃波の対応は何とかなるが、相手は剣なのだ。ただ素手で殴っても中々ダメージを与える事は難しいだろう。
　こういった相手に攻撃するならば内部に気と衝撃を徹す発勁や靴で覆われている足で攻撃を行える蹴りが有効になる筈だ。

　更に言えば、攻撃する部位等も重要になるだろう。
　切り刃の方ではなく、刀身の腹、即ちは平の部分を攻撃すれば効果的な筈だ。上手くすれば折る事さえ可能かもしれない。どう見ても普通ではない剣なので、簡単に折れるかは解らないが。

「それにしても、あの衝撃波の後は結構隙が大きかったわね。狙うならあそこかしら」

　蛇那伊の考えは間違っていない。彼の反応速度ならば十分に対応可能な筈なのだ。
　ただ、どうすれば使うかは解らないので、前後の動きを屈指してヒットアンドアウェイで蹴りを入れながら使って来るのを待つ事にする。

（……来るっ！）

　蛇那伊の的確なヒットアンドアウェイに苛立ったのか、強い殺気と共に黒い靄を纏う剣の化け物。
　鋭い剣の振りと共に地面が抉れて真正面に突き進み始める。しかし、それこそが蛇那伊の待っていた時。

「はぁああああっ！」

　裂帛の気合い。瞬間、間合いを詰めて刀身の平へと手を添える。力強い踏み込みが地面を叩き、練られた蛇那伊の気が衝撃と共に剣の化け物へと叩き込まれた。
　黒く染まった剣が吹き飛び、まるで金属が引き裂かれるような不快な音が辺りへと響き渡ったかと思えば丁度蛇那伊が打ち込んだ辺りからヒビが広がっていくのが見えた。
　そのヒビは瞬く間に全体へと広がり、最後には刀身がぽっきりと折れてしまう。

「ふぅ。まぁ、こんなところかしら」

　呪われし魔剣。その1つが消え去った瞬間であった。

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