猫耳にゃん！｜リアクション

猫耳にゃん！

　―――だだだだだっ。
　とてもお嬢様とは思えない勢いで環的子は自室に飛び込むと、ランドセルを放り出して大きな天蓋付のベッドにダイブする。ふんわりと受け止めてくれた大きなベッドにちょこんと正座をすると、的子はサイドテーブルに置かれたカプセルギアに話しかけた。
「ネオム！　ネオムー！　どうしよう」
　大好きなカプセルギア、ネオムを前に的子は両手でぎゅっと押さえていた頭の帽子をゆっくりと取った。そこから現れたのは、的子の白い髪と同じ色の、猫耳。
「猫耳と尻尾が生えたんだ……」
　的子は目をうるうるさせながら、ネオムのつるりとした乳白色の顔に話しかける。彼女のスカートからは白色のふさふさした尻尾が揺れていた。

　午前授業の帰り道。突然猫耳と尻尾が生えた。
「にゃっ？！」
　ど混乱に陥った的子は必死に帽子を押さえながら家へとひた走ったのだ。ふさふさの尻尾を揺らしながら。頭隠して尻隠さず。
（こんな事、誰にも言えな～い！）
　こんな一大事を相談できるのは、相棒のネオムだけ。的子は家に辿り着くと、ただいまも言わずに自室に一直線に飛び込んだのである。

「いつ戻るのかな。困ったよ、ネオム……」
　ネオムを前に、的子はしゅんと猫耳を伏せる。ネオムは静かに立ち尽くすだけだ。的子は大事な相棒をしばらく見つめていると、ふとある事に気が付いた。
（今、私に尻尾があるって事は、尻尾のあるネオムとお揃い同士なんだ）
　お揃い。それは魅惑的な響きだった。人間とカプセルギアという違いを、何だかひょいと越えてくれそうな。
　的子は自分の尻尾を動かしてゆっくりとネオムに触ってみた。尻尾は上手に動き、ふわふわとネオムに触れる。的子はネオムの尻尾をつうっと自分のそれで撫でると、照れくさそうに微笑んだ。
「お、おそろーい。なんて。んへへー」

　その時だった。ちょっと尻尾に力が入り、ネオムがぐらぐらと揺れた。
「あっ、ごめんネオム！」
　的子は慌てて謝るが、ぐらんぐらんと揺れるネオムを見ると、彼女の瞳がきらりんと光った。
（待って、ネオム。にゃにその魅惑的な動き……）
　じーーーーっ。ベッドで低い体勢を取った的子の頭は、ネオムの動きに合わせて右、左。
「ひにゃっ！」
　一声叫んで飛びつくと、的子はネオムを自分の手元に引き寄せて、にゃにゃんとじゃれ始めた。
　猫ぱんち！　猫ぱんち！
　いかんともしがたい野生の本能。またネオムがころころ転がるので的子は猫まっしぐらだ。
「にゃっ！　にゃっ！」
（た、楽し～い！）
　的子はネオムにじゃれつき、高く放り上げ、上手にキャッチしてすりりと頬擦りをして。的子は今、完全に猫としてネオムに夢中だ。
　そうして的子はネオムと遊んでいたが。

「ん……」
　暫くすると的子はこしこしと目を擦り、ふにゃ～と大きくあくびをする。そして大事な獲物（！）のネオムをしっかりとその胸に抱くと、尻尾をくるんと巻き付けベッドに丸くなった。
　やがて。的子の部屋には遊び疲れたにゃんこの寝息が静かに聞こえてきた。

＊

「んにゃ……はっ！」
　的子はガバリと起き上がった。窓から射し込む光は赤みを帯びている。どうやらかなり長い時間寝ていたらしい。
（そういえば！）
　的子はペタペタと頭を触り、自分の背後を確認した。猫耳と尻尾は綺麗さっぱり消えていた。
「よ、よかった～」
　ほうっと的子は胸を撫で下ろす。と、ベッドの上のネオムが目に入った。その姿を見て、的子の頭を数時間前の事が瞬時に駆け巡った。
（な、なんか私……猫っぽい事を沢山……ネオムの前で……）
　的子が青くなり、赤くなる。的子はガバッとネオムに飛びついた。今度はしっかりと彼を握って。
「わー！　ごめんねネオム！　ほんとごめん！」
　一生懸命謝るが、ネオムはつるんとした表情を崩さない。
（幻滅されてないといいなぁ……）
　涙目で思う的子だったが、またハッとその顔を青くした。
「ああー！　宿題してないー！」

　ネオムを置いて慌ててベッドを降りる的子。その背中を見守るように、ネオムはころんと横たわっている。

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