【星幽塔】第七階層　そうだ、祭りに行こう｜リアクション

【星幽塔】第七階層　そうだ、祭りに行こう

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　アリスは、的当てをひとしきり楽しむと、次の夜店を探して、あてどなく祭りの会場をさまよっていた。
「よーし！　マスターへのお土産もゲットできたし、次は何しようかなぁ♪」
　楽しそうにアラビア衣装から羽をぴこぴこさせるアリスの胸に抱かれているのは、こんがりと揚がったさそりのぬいぐるみ――すなわち『サソリ（のから揚げ）のぬいぐるみ』。「なんで揚げたし！」とツッコまれることうけあいの、祭りの定番景品らしい。ちなみに自分用に、『ミニサソリの琥珀のネックレス』もゲットした。これもなかなかお気に入りである。
「んん？　なんか楽しそうな音楽聞こえてくるよ？」
　はっとしたアリスが耳を翳せば、広場の中央の方から、どこかゆったりとしたエキゾチックなメロディが流れてくる。
「お祭りにお越しの皆様ー、ただいま中央広場で、伝統芸能行事の『アブラカタダンス』が行われております！　未経験でも全然ＯＫですので、どしどし飛び入り参加しちゃってくださいー！」
「……アブラカタダンス！　楽しそう！　よし、さそりくん、ちょっと待っててね！　私も踊っちゃうよ♪」
　アリスは、ぬいぐるみをその場に置くと、見よう見まねでダンスに飛び入り参加した。
　どこぞの幼女のせいでいつも大量の生中を運ばされる中で身につけた身のこなしがここに来て役に立った。
　淡く透けるヘッドヴェールをたなびかせ、アリスはリズムに合わせて華麗に舞い、踊る。
　楽しそうなアリスに釣られたように、どこからともなく現われた精霊のジンが、アリスのサポートメンバーのように一緒に踊る。
「あは♪　ジンもノリノリだね！　私も凄く楽しい！　マスターも来ればよかったのに♪」
　それからしばらくの間、アリスは仕事のことは忘れて、一心不乱に楽しく踊り続けた。

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　ティオレは、本業は盗賊だが、ときたま酒場で小遣い稼ぎに踊り子をやることもあった。
　だから、それなりにダンスミュージックには通じていたが、その祭りで演奏されている音楽はとても独特でこれまでに聴いたことのないものだった。
「まあこれも何かの縁だと思って、軽く踊っていこうかしらね」
　踊りは慣れっこであるから、物怖じすることなく、踊る人々の中に加わり、リズムに合わせて舞い踊る。
（いつもはもっとテンポの速い曲で踊るから、なんか新鮮ね）
　神に捧げる踊りと、見世物の踊りはやはり違うのだ、と踊りながらティオレは思った。
（そう言えば、神様に祈りとお願いを捧げる意味もあるんだっけ？）
　ふと思い出したティオレは、
（次の本業ではがっぽり稼げますように……）
　と、神に捧げるには、あんまりにあんまりなお祈りをするのだった。

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　夏朝も、楽しげな雰囲気に魅せられて、踊り場にやってきた。
「神様に祈りを捧げる踊り、かぁ……」
　やはりお祭りは、塔の中でも、神事であるらしい。
　そして、やはりお祭りだけあって、そこで踊る人々は皆楽しそうだ。
（……難しそうだけど、なんとなくやってみようかな）
　おそるおそる一座の中に混じって、夏朝も踊り始める。
　すると、不思議と踊りのメロディーは身体に馴染み、自然とまわりに合わせて踊ることができるようになった。
　踊りに夢中になっていると、薄着の衣装とはいえ、額に汗も浮かんでくる。
　けれど、何かを願うように、一生懸命に踊る人々を見ると、夏朝もそんな疲れなどどこかに飛んでいってしまう。
　だから、夏朝もまた祈った。
（神様……どうか第七階層の、星幽塔の皆を守ってあげてください）
（皆に害為すもの相手に戦う時には、力を貸してあげてください……）
　それは、今の彼女にとって、切なる、本当に切なる神への祈りであった。