◆夏の悪い文化

　さて、桜庭 円は先程からスマートフォン片手に一喜一憂をしている。
　一体何をしているのだろうか？
　スイカ男たちも気になったようで、様子を見にやってきた。
「アンタは海に入らないのか？」
「そんな可愛い水着を着ているのに、もったいないぜ？」
　おっと、ナンパかな？
　スイカ男たちの誘いに、桜庭は血眼で睨み付けた。
「うるせ～～～～！！　水着なんてしらねぇ～～～～！！　（※イラストが）ねぇんだよ！　オレンジのタンキニ着ててもボクは！　（※イラストが）ないから！　披露できなんだよ！！」
（※部分の発言は、神魂の影響でミュートされました）
「代わりにボクの愛猫のにゃーくんを見せてやるよ！　オラッ可愛いだろ！！」

　おいおいやべーのに声かけちゃったぞ、とスイカ男たちはドン引き。
　だが、これしきで引き下がる彼らではなかった。
「なぁ、アンタ？　俺達に夏の楽しみ方を教えてくれよ。アンタみたいな美少女なら知ってるだろ？」
　これに桜庭は「おっと、ボクにそれ聞いちゃう？」的な感じで口角を釣り上げる。
「存じておりますとも、現代日本人の正しい日本の過ごし方というのを！」
　妙に自信満々に語る桜庭！
「今風の過ごし方、ちゃ～んとネットでしらべてるから！　ちょっと、教えちゃおうかなぁ！？　オ・ト・ク情報、僕たちだけのヒ・ミ・ツだよ、てへ♪」
　ウィンクして舌を出すアザトイカワイイポーズ！
「「マジ天使降臨……！」」
　異性という存在は雌花くらいしか知らないスイカ男たちはチョロかった！
　桜庭は手にしているスマートフォンをスイカ男たちへ印籠めいて突き出した。
「君達は！　文明！　文明というものをしらない！　所詮野菜！　野菜だ！　現代の夏の本当の過ごし方というのを一切分かっていない！！！！　分かったらイエスの前にマムを付けろ！！！！！！」
「「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」」
「いいか！？　現代人の夏イベントといえば、ソーシャルゲームの夏イベントだ！！　ログインボーナスで石ゲット！　メンテ延長で詫び石ゲット！　イベントミッションでも石ゲット！　とにかく夏は石をゲットするチャンス！！」
「マムッ！　質問であります！」
「発言を許可する、そこのビー玉野郎！」
「マムッ！　イエスッ！　マムッ！　そもそも石とは何でありますか！？」
「馬鹿野郎が、このベジタボー！！」
　桜庭のビンタがスイカ二等兵に炸裂！
「グワーッ！！」
　哀れスイカ二等兵は吹き飛び沈黙を確認！
　ナムアミダブツ！
　桜庭は力説する！
「石を貯めてガチャを回す！　石が足りなければ課金する！　なぁ、常識だろうがァ！？」
「「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」」
「よろしい、君達はオキニのキャラのログインボイスを100回ループ視聴することを許可する！」
「「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」
「ほら、みてみろこのゲーム！　女の子可愛いだロォ！？　夏イベで手に入ります！！！！　無料で！！！！　では、そこの二等兵、タッチしてみろ」
「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」
　指名されたスイカ二等兵は、スマホに映る女の子の胸の部分をタップした。
「ね、揺れますね？」
「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」
「だがテメー、いきなり胸をタップするとはいい度胸じゃねーか、このベジタボー！」
　上官の鉄拳制裁！
「アイエエエ！？」
　哀れスイカ二等兵は錐もみ回転で砂浜に突き刺さる！
「では只今より！　『無料』でこの水着の女の子を入手するオトク情報を君達に伝達する！　嬉しいか、野菜共ッ！？」
「「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」」
「よろしい！　まず、夏イベントで勝つためには周回してポイントを稼ぐ必要があるのだが、期間限定の水着ガチャで出現するキャラクターのお陰で３２倍の特攻補正がかかります！」
　ざわ……ざわ……！
　スイカ二等兵達は気付く。
　貯めた石は此処で解き放つのか、と！
「しかも今回の水着ガチャ、7000円で9連ガチャ出来ます！　排出率は25％！　25％の確率で入手可能！（※ただし75％の確率で抽選が漏れるとは言わない）　通常の排出率は１％ねぇんだぞ……？　どれだけ異常な事か分かるよね？？？　こりゃ諭吉を投入するっきゃないよね！？」
「マムッ！　無料なのに資金投入するのは愚の骨頂かと……」
「誰に意見してんだアァァァン！？」
「アバーッ！？　ジュースになっちゃうぅぅ！？」
　桜庭のアイアンクローがスイカ二等兵の表皮に食い込む！
「まずは１枚ゲットしてロックを掛けろ！　更に同じキャラ４枚を合成して重ねると、イラストの水着布面積が小さくなります！！！　しかも強くなります！！！！！！　うれしいですね！！」
「「アッハイ！」」
「ちなみに手に入らなかったら、人権はありません！　うんこです！！！　うんこになりたくなければ死ぬ気で引いてください！」
「「ガンバルゾー！」」
「分かったらさっさと引けよォ！　夏の為に！　夏の為にィ！！」
「「マムッ！　イエスッ！　マムッ！」」
「あ、ちなみにボクのスマホですが、御剣刀くんの携帯をご用意しました。ちゃんとロックの解除方法はチェック済みです。って、あれぇ？　『お客様のご利用限度額が上限に達しました』って表示が出てるゥ！？」
　桜庭がやっちまったぜ☆彡的なアザトイカワイイポーズをしていると、御剣が鬼の形相でドロップキック！
「桜庭ぁ！？　俺のスマホで何してんだ！？」
「あいたー！？　って、ちょうどいいところに！　刀くん！　これ解除して！！　このソシャゲ、あとガチャ１回で確定排出だから！！　ね？？？　あと１回でいいから！！！」
「ザッケンナコラー！！　俺のスマホでソシャゲしてんじゃねーよ！　一体何人の諭吉さんをジゴクへ送った！？　言え、言いやがれ桜庭！！」
「うわー！？　何処から木刀を出したの刀くん！？　ってあいたー！？　ろっこんで加速するのずるい！！」
　高速移動した御剣、桜庭からスマホを奪い取ると、画面をまじまじ確認！
「あーっ、カードが止まってんじゃねーか！　これの制限解除するわけねーだろ！！　やっていい事と悪いことあるぞ！」
　木刀を構えて桜庭ににじり寄る御剣。
「カードを止めちゃったのは確かに悪いことかもしれないけど！　でもほら、よく見て！　星５最高レア＋期間限定水着キャラはコンプしたから！　これはやって良い事だよね！」
「ンな訳あるか牙突ッ！」
「ガチャは悪い文化サヨナラー！」
　桜庭は爆発四散して現実世界へ帰還していった。
『円ちゃん、さすがに他人の携帯でそれは……』
　筆談で突っ込む小山内もドン引きであった。
　何気に彼女は、目の前のカオスで未だにスイカ男たちのマッチョぶりに気が付いていない。
『刀、どんまい。うみ、たのしもう？』
「もう駄目だ……。あいつのせいで、俺は明日からの生活費がゼロだ……！」
　その時、御剣は何かを閃く。
「星幽塔の眠っている財宝をこっちで換金すれば、結構な稼ぎになるんじゃ！？　海、俺は決めたぞ。お宝探しのプロ、トレジャーハンターに俺はなる！！」
『……それよりも、私が刀のおうちで、ごはん作ろっか？』
「え？」
　これぞまさしく『人間万事塞翁が馬（サイホウ・ホース）』。
　また一歩、２人の関係が深まった、のかもしれない。