■メイド達の真実
　気配を消すことに長けていたエナメル黒バニー、絢。
　サキリやアスワドが蜜蜂警備隊が派手に戦う最中、息を殺しそっと前進を続けていたのだ。そして、
「あなたがカァリ夫人、ですね……」
　隠し部屋に匿われていたカァリ夫人。しかし絢はその小部屋に難なく辿り着いた。
　狭い部屋の中でカァリ夫人は怯えた表情を見せており、その両脇には主人が亡くなる前から雇われていたメイドであるアイオ・キャンドライトとレイ（寝子島ネーム：滝原 レオン）の姿がある。
「黄金の林檎がある部屋の鍵を、あなたが持っていることは知っているわ」
「どうしてそれを！？」
　カァリ夫人の目が見開かれた。
「危害を加えるつもりはないの。ただ、鍵を渡し林檎を持って帰ることが出来れば、それで終わりよ」
　諭すような表情で伝える絢。
「奥様……ここは大人しく渡した方が良いですわ」
　アイオがそっとカァリ夫人の肩に手を置く。
「そうです、命までは奪われません。早く、身につけている鍵をお渡しするのが懸命かと……」
　信頼する2人のメイドの言葉に、カァリ夫人は深刻な表情を見せる。そして、首から下げたネックレスの先端に手を充て、キュッと握った
「奥様、渡してはなりません……！！」
　扉が開き、時子が叫ぶ。その後ろにはかようと蜂形の姿。
「いやーー、まさかねー。ビックリだわー」
　かようがピュウと口笛を吹く。
「メイドのアイオとレイ、まさかお前たちが……バニー団の一員だったとわ！」
　かようの声に、アイオとレイはクスりと笑みを浮かべる。
「ほ、本当なの！？」
　カァリ夫人が驚きの表情を見せる。
「あらぁ、バレちゃいました☆」
　レイがクスリと笑みを見せれば
「バレてしまったからには正体を明かさないわけにもいきませんわね」
　アイオが青い瞳をキラリと輝かせ、高らかに声を上げた。
「いつも心に１羽のうさぎ！」
　そしてアイオは大きく跳ね飛び、アイオ空中三回転！
　スチャッ！ と地面に着地すれば、その姿はワインレッド色のバニー服に入れ替わり、耳には黒い兎耳が！

※さあ、心の目でワインレッド色のバニー服と黒いウサ耳を！ さぁ！
「私の正体ははバニー団のバニー・ザ・キャット！ 邪魔する子はひっかきますわよ！」
　ニャン☆ と招き猫ポージングで口上を名乗り上げるアイオに
「え……！？ うさぎなのか！？　猫なのか！？」
　戦闘もののお約束通り、名乗りや変身シーンの時には攻撃をしない暗黙の了解を守る蜜蜂警備隊の面々であるが、つい突っ込まずにはいられなかったかよう。
「前髪むしり取りますわよ♡」
　口調は愛らしいが、爪を立てフシャーーッ！ と威嚇するアイオ。その隣でコホンと咳払いするのはレイ。
「さらに！ カァリ家のしがないメイドは仮の姿！ 私の正体はバニー団が一人……」
　レイが大きく息を吸い、スチャッと兎耳を装着する。

「バニー・ザ・メイド！ 萌え萌えキュン☆」
　胸の前で指でハートを形作り、愛らしくウィンク☆
　一部の蜜蜂警備隊は萌え萌えキュン攻撃でだいぶ心を射抜かれた模様。
「え……！？うさぎなのか！？ メイドなのか！？」
　かようが思わず声を上げれば。
「うるさいわね！ 猫耳のメイドがいるんだから、うさ耳のメイドがいたって別にいいじゃない！」
　萌え萌えキュン攻撃で心を射抜かれた雑魚蜜蜂警備隊員がうんうんと頷いている。あいつらの苗字多分全員金原。
　しかし何より、メイド達のウサ耳化に一番衝撃を受けたのはカァリ夫人だろう。
「あなた達……主人が生きていた頃から働いてくれていたのに……！！」
「えぇ、そうです。ご主人様が黄金の林檎を持っているかもしれない、と噂を聞きつけた時から……ここに奉公にきたのです。全ては計画通り★」
　レイが愛らしくウィンクすれば、アイオが憂いを帯びた瞳を伏せ。
「行き場のない孤児だった私を引き入れてくれたバニー団……」
　アイオの瞳に涙が貯まる。
　脳内に流れる辛かった子にゃんこ時代……そこに手を差し伸べてくれた、兎耳を付けたボリューミーなバニーの姿が思い描かれる……！
「あの時、私の手を握ってくれた兎手のふわっふわ感と暖かみは、一生忘れなくてよ……！」
「そう！ 私とアイオのビッグ・ザ・バニーへの忠誠は、絶・対！ さぁ、黄金の林檎はいただくわ！」
　そう言い、２人がカァリ夫人のネックレスを奪おうと手を伸ばす、が
「させません……っ！」
「そう簡単に奪わせるかよってんだ！」
　時子の蜂蜜弾ピストル、そしてかようの投げた蜂蜜ボールがアイオとレイの足元を狙う。
　アイオは軽々ジャンプし避け、レイは
「あぁっっ！」
　咄嗟に避けるが、レイのメイド服の後ろリボンのヒラヒラに、時子の蜂蜜弾がべちゃり。
「ちょっとレイ、ドジっ子はフェイクじゃありませんでしたの？」
　ほほほほほ、と余裕の笑みを見せるアイオに、キィィと悔しがるレイ。
「何よ、アイオだって料理当番の時、魚尽くしで奥様どころか近所の魚屋を困惑させたじゃない！ 生き造りって生魚を皿に乗せるってことじゃないわよ！」
「それを言われたら、レイさんだって！ せっかく潜入出来たからアレも持っていこう、と狙っていた高価な壺を箒の柄で叩いて割ってしまわれましたじゃないのっ」
　どうしよう、なんかこのまま放っておけばバニーメイド内戦が勃発するのでは……と、蜜蜂警備隊の面々が考えていると
「……な、ないわ……！！」
　カァリ夫人が叫び声を上げた。
　いつのまにやら、首元にあったカァリ夫人のネックレスがなくなっている。
「もしかして……！ ２人に視線を釘付けにしてその隙に先程の黒バニーさんが盗む、という戦法……！」
「くっ、流石バニー団、やられた……っっ！」
　ハッとする時子に、悔しがるかよう。アイオとレイは顔を見合わせ
「な、なーーんちゃって！ こんな所で喧嘩なんてするわけないじゃないですかー、ヤダー！」
「ほ、ほっほっほ！当たり前でしてよ、全て作戦ですわ！」
　引きつり笑顔を見せるレイとアイオだった。
「蜂形さん、カァリ夫人は私が……！」
「頼む、時子！ かよう、黒バニーを追うぞ！」
　黄金の林檎が仕舞われた部屋へと向かう蜂形とかよう、そして時子は蜂蜜弾の入ったピストル銃をアイオとレイに向けながらカァリ夫人の傍へと歩み寄る。
「黄金の林檎を盗むだけでなく……許せません……！！」
　時子の瞳に炎が宿る、が。
　アイオもレイも、バニー団達の中でも優秀な力と忠誠を誓うエリートバニー達であり。
「私達２人に勝てると思いまして？」
　アイオが笑みを浮かべ、両の手を顔の前で交錯させる。すると、シャキンとその爪が伸びた。
「うさぎに鋭い爪、ですか……！？」
　時子が驚きの声を上げる。
「ほっほっほ、後ろ髪むしりとりますわよ♡」
　思わず時子が己の後ろ髪を気にすると、そこを狙ったかのようにアイオが時子に飛びかかった。
「バニーークローー！」
　空中でクルッと回転し、アイオはその爪を振るう。
　時子は咄嗟に蜂蜜銃で応戦し、アイオの肩口に蜂蜜弾が叩き込まれた。
「……くっ！」
「ひゃぁっ！！？？」
　銃が当たったことによりアイオの軌道が逸れる、がその爪は時子の制服の太腿や腹部に大きく引っ掻き穴を作っていた。
　時子の白い太股が露わになれば
「当たった感覚はありませんでしたのに……！」
　時子の額に汗が浮かぶ。その様子にレイが頷く。
「アイオのバニークロー。バニー団の奥義、人を傷つけず衣類だけを粉々に切り裂く技……！これほど私が敵じゃなくて良かった、と思う瞬間はありませんねっ」
　更にアイオが飛びかかる、が時子は大きく避ける、すると
「きゃあ☆」
　バニークローの餌食にあったのはカァリ夫人。見事にスッポンポンである。68歳の初夏。
「くっ、手元が狂いましたわね」
「あぁぁ、大丈夫ですか……！」
　時子が慌ててカァリ夫人の前に立つ。
「ま、力の差は見せられましたよね。さぁ、人質になってもらいましょう♪」
　レイが懐から愛らしいクリオネのぬいぐるみを取り出す。
　そしてそのぬいぐるみをレイがむぎゅっと握れば。
「バッカルコーーン！！」
　頭部と思わしき場所から網縄が勢いよく飛び出し。
「ああぁっ！」
　制服の一部が露わになった時子と、素っ裸のカァリ夫人が捕縛されるのだった。