コスプレと風変わりな試練｜リアクション

コスプレと風変わりな試練

「これは……参ったわね……」

　三宅葉月がため息を漏らしそう呟く。
　今の葉月は普段とは違う服装をしていた。ミリタリーに葉月が持つミステリアスな雰囲気を合わせたようなシャツと二段フリルで黒のミニスカート。
　
　かなり際どい短さのスカートは、黒タイツに覆われた脚を惜しげもなく見せている。その脚線美は艶めかしい色気を放っており、幾人ものの男を魅了しそうだ。
　そして、まるでその美しさを護る棘とでも言うかのように二丁の銀色の拳銃を手にしていた。

「まぁ、嘆いていても始まらないけれど」

　それでもこんな事に巻き込まれれば嘆きたくもなるものだと葉月は思う。
　瞬間、葉月は自らの意識を広げていく。それはまるで湖に波紋が広がるが如く。

　あの声の主達の説明によれば葉月が今いるのは電子空間とも言うべき場所だ。そこにおいて一種の聖域とも言える空間を構築し、その支配者にして守護者である精霊。それが今の葉月である。
　葉月が今からするべき事はこの領域を脅かそうとする敵と戦う事。

「来たわね」

　今の葉月にはこの領域に侵入者があればすぐに解るようになっている。

「ウイルス、というヤツかしら？」

　大きさはバスケットボールくらいだろう。蜘蛛の形をした黒い靄という表現が一番近いだろうか。

「そこね」

　まずは後方から接近するウイルスに対して視線を一切向ける事なく射撃を行う。肩から後ろへ向けた銃口から放たれるのは白に輝く光弾だ。それに当ったウイルス達は問答無用に粒子になって散って行く。
　だが、それを見たウイルス達に動揺はない。どうやら感情のようなものは持っていないようだ。

　葉月はそのまま次々と様々な角度から来るウイルス達を華麗に、けれどどこか物憂げな表情を浮かべて撃ち落とす。
　時には葉月の射撃を掻い潜るウイルスも出てくるものの、ふわりと二段フリルのスカートを翻しながらそれらを避けていた。

「……これは？」

　すると、不意にウイルス達の動きが止まったかと思えば小刻みに震え、そして、粒子になって消え去って行く。
　その代わりと言うように現れたのは世界を塗りつぶすようなドロドロとしたヘドロのような感覚。それは悍ましいにも程があった。

『グッグッグッ。ここの守護者は何とも美しいな』

　ズルリと何かが這い寄るような感覚を葉月が感じたと思ったら、彼女を囲むようにして黒い触手が幾つも現れる。そして、先程のウイルス達を三倍は大きくし、禍々しくしたようなモノもそこにいた。
　恐らくはこれこそがウイルス達の親玉とも言うべき存在なのだろう。

「あなたは、自我があるのね」
『あぁ、お前のような存在を侵食する為にな。クックックッ。お前のような美しい存在を穢し侵食するにはさぞかし楽しいだろうなぁ』

　口が三日月に裂け、ネットリとした視線が葉月の身体に絡みつく。

「なるほど。あなたに遠慮は必要ないようね」
『グッグッグッ。強がりを！』

　問答は終わりとばかりに葉月が銃を構えると、触手が一斉に動き出す。先程のウイルス達に比べその動きは速く、複雑だ。
　葉月の銀色の銃から光弾が撃ち出されては触手が弾ける。撃ちだす、撃ちだす。しかし、触手の数もまた多く迎撃が追い付かない。

「くっ！」

　布が切り裂かれる音。服やスカート、それに黒タイツが所々裂かれた音だ。服やタイツの下から白い肌が見え、扇情的な恰好になってしまっている。

『良い恰好だなぁ。まずはその邪魔なものを全て剥ぎ取ってやろうぞ！』

　そんな下卑た言葉にも葉月は表情を変えない。
　どうやらこの相手は葉月をまずは弄ぶつもりのようだった。ならば、葉月にも考えがあった。
　瞬間、葉月の身体がブレる。いや、その場で急加速をしただけだ。

『何だ、自棄になったか？』

　葉月は取り合わない。弄ぶつもりだから致命傷になるような攻撃はしないと解っているからだ。多少露出が増えようが無視だ。

『む、何っ！？　止めろ、手足を捉えろ！』

　この期に及んで倒す為の攻撃をしない。それはもしかしたらそういう性質を与えられているからなのかもしれない。
　触手の一本が葉月の片脚を捕まえ、そして彼女を持ち上げ逆さまにする。

『無駄な抵抗を……なっ！？』

　だが、それすらも葉月の狙い通りだ。逆さまに持ち上げられた状態から葉月は二丁の銃から無数の光弾を撃ち出した。油断している所に最大の攻撃をするつもりだったのだ。

『グウォオオオオオオッ』

　響く断末魔。それが消え去った後には葉月のみが佇む静寂な空間が広がっていた。

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