今年の水着を買いに行こう｜リアクション

今年の水着を買いに行こう

　第３話

　羽生碧南は、バスケで鍛えられた引き締まってたモデル体型の身体付きとは裏腹に可愛らしい顔立ちと、ややアンバランスな雰囲気を持っている。夏物を買いに来た彼女は、いい感じの服を手に入れて気分良くアウトレットを歩いていた。
　身長１８０センチの碧南は、なかなか可愛らしい服を買うことができない。どうしてもサイズの壁にぶつかるからだ。だが、今日は普段なら諦めてしまうようなデザインの服を見つけられた。
（後は、適当にウィンドウショッピングでもしていこうかな……）
　ぶらつきながら色々な店先の商品を見て、目を楽しませる。そのうち、水着売り場の前を通りかかった。
「今年の初水着をＧＥＴしませんか？　これからの一夏を楽しみましょう！　あ、そこのあなた、どうですか？」
　呼び込みの店員に声をかけられ、碧南はちょっと迷った。今年の水着はもう買ってある。大胆だけれど、かなり気に入っている１着だ。
（まあ、見に行くだけならいいよね……）
　店に入ったら絶対に買わないといけないわけではない。
「じゃあ、ちょっとだけ」
「いらっしゃいませー！」
　店に入ると、様々な水着とマネキンが碧南を出迎えた。
「わあ……」
　彼女はフリルが好きで、フリルであしらったタンキニや、やはりフリルで可愛らしく仕上げたビキニを中心に見ていく。
（可愛らしくていいなあ）
　だが、興味を持ってタグをチェックしてみるとやはりサイズが合わない。
（あれ……？）
　溜息をついて別のコーナーに移ると、どこかで見たような水着を見つけた。
「そうだ、これ……！」
　碧南は乙女ゲーム好きだ。今は『６月は恋雨の日々』というゲームをやっていて、その攻略対象の一人、久世新（くぜ・あらた）とのデートイベントで今年の新作水着を攻略相手と一緒に購入するというのがあった。そのイベント中で見た水着の中の一着とよく似ている。
　この水着を見たのをきっかけに、碧南は脳内妄想を始めてしまった。さながら脳内ＶＲだ。
（今年は少し大人っぽく攻めてみようかな……それとも、可愛らしく決めてみようかな……）
　主人公の少女になった碧南は幸せモードに突入し、周囲が見えなくなってしまった。
「ええっと……これ、似合うかな、新？」
『ああ、似合ってるよ。健康的で君らしいね。この３種類の水着から選ぼうとしてるみたいだけど、どれにするんだ？』
　新の隣にあるのは３種類の水着で、左から清楚系、健康系、セクシー系になっている。
「どれがいいかな……。ここで新の好感度が変わるんだよね……」
　碧南は真剣に悩む。清楚系を試着すると、新は「見違えたよ。何だかイメージが変わったね」と言い、セクシー系を試着すると、「すごいね、ドキドキしちゃうな……」と言うのだ。どれも褒めてくれているけれど、健康系が一番社交辞令っぽかったかもしれない。
「迷うなあ……やっぱりセクシー系かな？」
「彼氏さんとデートですか？」
（えっ！？）
　店員に話しかけられ、ゲームの世界にどっぷりと浸っていた碧南はそこで我に返った。
「あっ、そうなんです！　どんな水着がいいと思いますか！？」
　慌ててそう言うと、店員は何やらアダルティで、更に見覚えのある水着を勧めてきた。
「これなんか、とっても似合うと思いますよ！」