【プール開き】ドキッ☆水着だらけのうふふのふ♪｜リアクション

【プール開き】ドキッ☆水着だらけのうふふのふ♪

「まさか、こんな日に来てしまうなんてね」
　朝鳥さゆるは、細く息を吐いた。
　日頃、学校に顔を出していないことが災いし、今日がプール開きだと、知らなかったのだ。
　しかも今年は、近隣の人にもプールを開放しているとのことで人の数が多く、それこそ真夏の海のように、賑やかである。
「……帰ろうかしら。ああ、でも」
　さゆりは気だるげに空を見上げた。初夏だというのに陽光は、すでに夏の盛りの鮮やかさ。
　つっとうなじを伝う汗が、気持ちが悪い。
「たまには、学校行事に参加するのもいいわね」
　――要は、涼を求めて。
　さゆるはプールへと向かって行った。

　とはいっても、当然水着は持ってきていないため、貸し出された水着を着用する。
「これは……去年と同じものね」

　さゆるの脳裏に、去年の寝子祭のミスコンが、思い出された。
　が、それはあくまで記憶にあるというだけで、特別懐かしいと感じるものではない。
　いや、そもそも彼女が心を動かされることなど、ほとんどないのだ。

　多くの人が水と戯れるわいわいコースで、誰とも話さず、まっすぐ泳ぐ。
　周囲では、最初楽しそうな笑い声が響いていた。
　しかし、それが途中から、悲鳴に代わる。
「……どうかしたのかしら」
　さゆるは泳ぐのをやめて立ち止まり、周囲を見回した。

「タコが、私の水着をっ」
「コンブが絡みついて……」
「サメ、サメが来るっ……」

　らちが明かない声を聞き、すうっと目を細めたところで。
「ああああ、朝鳥いいい、さ、さゆるうううっ！」
　聞き覚えのない声が、さゆるの名を呼んだ。
　同時にごごご、と割れる水面。猛スピードでやってくるのは。
「サメ、ね」
　正確には、黒い三角形をしたサメの背びれだ。
「なぜ、こんなところにいるのかしら」
　さゆるは呟いた。たいていの人ならば、叫んで逃げるのが普通。しかしさゆるは、緊張で動けぬわけではなく、ただ淡々と、猛進してくるサメを見つめていた。
「さ、さゆるっ、さゆるっ！」
　狂ったような声に呼ばれて、眉間に一本、しわが寄る。
　サメはさゆるをあっさり食えると思っているのか。そんなことはありえないのに、笑っている風にも見えた――。
　が。
　牙がさゆるの体に触れる直前で、彼女のろっこんが発動する。
「……遅い」
　彼女は素早く身をよじり、直進してくるサメをかわした。

　ひらり、ひらりと優雅な舞を舞うように。
　あるいは抜群に美しい闘牛士のように。
　さゆるは、サメの攻撃を、避け続けた。
　悲鳴の中に感嘆が生まれ始めたのは、彼女の動きを見てのものだろう。
（でも、どうしようかしら）
　サメはいっこうに、さゆるを諦めるそぶりを見せない。
　そこに、悠々と泳いできたのは、牡丹だった。
「水着を脱げば、襲われませんよ！　さあ、脱いじゃいましょう☆」
　全裸の彼女の手が、さゆるの体に伸びてくる。
　しかも。
「朝鳥さん、お立ち台へいらっしゃい！」
　――呼ばれてしまった。

　お立ち台から見下ろすプールは、阿鼻叫喚の地獄絵図……とまではいかないにしろ、ゼンラー生物と、ゼンラーな人々が入り乱れたカオスとなっていた。
（……気が狂ってる）
　男女問わず絡みつき、体や水着を買えるコンブも。
　ちゅうちゅうと水着を吸いとるオクトパスも。
　はあはあと荒い息を吐きながら、興奮しきって人に突撃しているサメも。
　なにより、先生たちがそれを謎と思わずセクシーな体を見せていたり、生徒たちがつぎつぎあられもない姿になっていることも。
（でも、このバカバカしい状況を抜け出すには、それしかないのよね）
「……朝鳥さゆる」
　ごく小さな声で名を言って、さゆるは、ワンショルダーの肩に、手をかけた。それをするりと引き下ろし、隠されていた美しい肌を、夏の日のもとにさらしていく。
　一糸まとわぬ姿となっても、どこも隠すことはなく。
　さゆるは堂々と背筋を伸ばした。
　ＢＧＭは、どこか悲し気なインストゥルメンタル。それを聞きつつ、息を吸いこみ、水中にダイブした。
　胸を揺らし、揃えた足で水を蹴って。大胆なバタフライで、25メートルを泳ぎ始める。
　途中コンブがちろりと薄い腹を撫ぜ、タコの吸盤が腿をかすめた。でも、さゆりは気にすることはなく、悠然と泳ぎ切る。
　そのタイムは、29秒。
「……ふうっ」
　全裸のまま、ざばりと水から出て、さゆるは濡れた髪をかき上げた。
「外に出ると、暑いわね」
　白い肌には、水滴がきらきらと輝いていた。

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