Father's Day がやってくる｜リアクション

Father's Day がやってくる

○嬉しいのに、心配になる

　自宅マンションからほど近い星ヶ丘のダンススクールにて。
　岡瀬靖久は雇っている講師数名と共にレッスンに勤しんでいました。
　日曜日のレッスンは人気があり忙しいのです。
　一見気難しそうな雰囲気を纏っている靖久ですが喋れば気さくなので、
「今日は父の日ですね」
　などと生徒に声をかけられましたが。
「そうだね」
　など興味なさそうに答えました。
　けれど内心では、
（結華、今年は何をしてくれるのかな。いつまで父の日を祝ってくれるのだろうか……）
　などとソワソワしているのです。
　そんなレッスンの後の休憩時間、一人で居る所に。
「パパ」
　靖久は突然現れた娘の姿に目を疑いました。

（確か、今なら空き時間よね）
　変な人に絡まれたことなどもあり、早く父親に会いたくなった結華は、買い物を済ませた後靖久のダンス教室へ向かったのでした。　　
「どうしたんだ、結華」
　会いに来てくれたのを喜ぶ前に、靖久は少し不安になりました。
（家に帰れば会えるのに、なぜわざわざ）
「パパ、いつもありがとう」
　そんな靖久の思いを知らず、結華は笑顔で父に手紙とランニングシューズを手渡します。
「こちらこそ、毎年ありがとう」
（別に変わったところはないな）
　娘の笑顔に僅かに目じりを下げ、ようやく靖久は安心しました。
「見てもいいかい？」
「うん。サイズはママに聞いていたから大丈夫だと思うんだけど……どうかな？」
　靖久は箱を開いてみて、頷きます。
　黒地に紫と白のラインが入ったデザインで、靖久好みのものでした。
「新しいランニングシューズだね、ありがとう。とても嬉しいよ」
　結局第一希望からランクは落としましたが、喜んで貰えたことに結華は安堵しました。
　しかし父が手紙も開こうとするので。
「ここで読むの！？」
　と恥ずかしそうな様子です。
「そうか、それじゃ後で読ませてもらおう」
「ママが、今日の晩御飯はパパの好きなタンシチューにするって。お手伝いするから、先に帰るね」
　再び笑顔になった結華はそう言って背を向けました。　
「あぁ、晩御飯楽しみにしてるよ。気を付けて帰るんだよ」
　何気なく言った靖久の言葉に、結華は振り返りました。
「そう言えば、さっき素敵な人に助けてもらっちゃった」
「……え、どういうこと！？　結華！？」
　しかし結華は答えることなくご機嫌に微笑み、去ってしまいました。
（……帰ったら詳しく聞こう）
　と思う靖久でしたが。
（助けて？　……何があった？　素敵な人って、誰のことなんだ？！）
　ヤキモキする気持ちを切り替えようと努めるも、難しく。

「ちょっと、先生なんか厳しくない？」
「なんかさっきより気合い入ってるね……」
　胸の内のモヤモヤを発散するように、その後のレッスンは激しかったようです。　　