Father's Day がやってくる｜リアクション

Father's Day がやってくる

○プレゼント選びと思わぬ出会い

「今年の父の日は何を送ろうかな……」
　寝子高２年の岡瀬結華は、考えていました。
　ふと、玄関先で見た靴が浮かびます。
（そういえば、そろそろパパの靴、くたびれてたよね。ちょっと見に行こうかな）

　シーサイドタウンの靴屋にやってきた結華は、一足のシューズに目を留めました。
「あ、あのランニングシューズ、とっても素敵。パパに似合いそう」
「でも……予算より何倍も高いな」
　星ヶ丘でなくても、良いものは高いのです。
「何かバイト始めようかな……」
　もう一軒見てみようかと店を出て歩きだした結華が独り言を言ったとき。
「お嬢ちゃん、欲しいものあるの？　俺と遊んでくれたら買ってあげるよ？」
　見るからに胡散臭い人達が近寄ってきました。
「……いえ、結構です」
　強い眼差しで応えた結華ですが。
「つれないこと言うなよ」
　絡まれて、強引に腕を掴まれそうに……
（どうしよう？）
　途方に暮れた結華の耳に、別の声が飛び込んできました。
「おい」

「あー、父の日ねえ……どうすっかな。まず見に行ってみるか……」
　寝子高１年の玖珂新は、父の日のプレゼントを見にシーサイドタウンを歩いていました。
　ショーウィンドウは父の日一色で、何か買わずにはいられない気になります。
「……親父、確かネクタイしてたよな。ネクタイにすっかな……」
　ですが、あまり適当に決めてはいけないと思いなおします。
（そういや靴もあったな、ちょっと見に行って……）
　新が思いついて靴屋に足を向けた時、絡まれている少女に気づいたのでした。
「……あ？」
　状況を理解し、舌打ちする新。
「良くもまぁ、恥ずかしげもなくやってくれるな……」
　新は中学３年生の春まで非常に荒れていた、所謂元ヤンでした。
　彼らのようなヤンキーは見慣れています。
　しかし情に厚い新は、困っている人は放っておけません。
「おい」
　新は彼らに歩みより、女の子の腕を掴もうとする男の腕を掴んだのでした。
「寄ってたかって何やってんだ。コイツ嫌がってんのが分かんねぇの？　目でも悪ィのか、あぁ……それとも耳か？」
「な、なんだお前……」
　金髪で鋭い眼光の新にすごまれ、ヤンキーたちはびびったようです。明らかに腰が引けていました。
「とっとと失せろ、目障りだ」
　睨みを利かせ、掴んだままの手に力を入れる新。
　ろっこんを発動していなくても握力は強いのです。
「きょ、今日のところは見逃してやる」
　ヤンキーたちは後ろも見ずに逃げていきました。

　驚いて様子を見ていた結華は、安堵の表情を浮かべました。
「助けてくださって、本当にありがとうございます」
　新に向かって何度もお辞儀をします。
「あぁいや、別に……」
　新は結華に見惚れながら答えました。
「……怖かったぁ。凄いです、ね」
　新の前で思わず本音＆安堵でへにゃりと笑う結華。
「……そりゃ、怖いッスよね。もう近づかねぇと思うんで……安心していいッスよ」
　ヤンキーと同類と思われるのではないか？　という不安がどこかにありました。
　でも結華の笑みを見て、その不安は吹っ飛んだのでした。

　結華と別れ、買い物を済ませて、新は旧市街の家に帰りました。
「親父。その……いつも迷惑ばっかかけちまって悪ィ」
「なんだ、突然？」
　一見厳格そうに見える父親は、いぶかしげに新を見やりました。
「と……、……ありがとう、な。これ」
　そう言って新は父にネクタイを渡しました。
「親父の趣味に合ってるかどうか分かんねぇけど……」
　父親の目に浮かんだ喜びを、新はそっぽを向く前に確かに見ました。
　妻子思いの父は、新が更生へ向かって努力しているのを嬉しく思っているのでした。
　