Father's Day がやってくる｜リアクション

Father's Day がやってくる

○おれにとってのお父さん！

　６年生の滝原カノンは、考えていました。
（父の日……お父さんに感謝を伝える日だっていうけど。でも、おれのお父さんはどこの誰か分からない。にーちゃんのお父さんとは違う人らしいことはわかってるけど、それ以上は知らない）
　顔立ちこそ似ていますが兄のレオンは銀髪で、黒髪のカノンとは違っています。
「……そうだ！」
　あることを思いついて、急いで家に帰ったカノンは、自分の部屋に入り貯金箱を開けます。
「足りるかな？」
　お金を持って、おもちゃ屋さんへ走ります。
　いつもはまっすぐカプセルギアのコーナーに行きますが、今回は違います。
　買えそうなものを探していると、小さなぬいぐるみが目に入りました。
「おじちゃん、これちょうだい！」
「まいどありがとう。あれ、今日はカプギアじゃないんだね」
　店主のおじさんの疑問にカノンは答えます。
「プレゼントなんだ」
「そうか、女の子にかい？」
　小学生にあるまじき高身長のレオンは、傍目にはカプセルギアより女の子へのプレゼントを買うほうが似合っていることでしょう。
「そういうわけじゃないけど、ぬいぐるみが大好きな人だから。ありがとう！」
　ちょっときょとんとした後、カノンは嬉しそうに包みを受け取りました。
　
　カノンの兄、寝子高２年の滝原レオンはカレンダーを見てふと気づきました。
「……あぁ、今日は父の日か」
（俺はこの日が苦手だ）
　レオンもカノンも、父親が分かりません。
（わかっているのは、二人で父親が違うということと、恐らく俺の父親は外国人だろうということだけだ。たぶん俺の父親は、俺が生まれたことすら知らないだろう）
　寝子島に来てからは祖母が母親代わりでしたが、祖父はレオンが島に来るずっと前に亡くなっていました。
（俺には、心から父と呼べる人がいない。だから、父の日は苦手なんだ）
　それはカノンも同じことです。
（まだ小学生のカノンにはつらいだろうな）
　と思いながら、レオンは夕食を食べるカノンのほうにちらりと目をやりました。
　
　もちろんそんなことは口には出さず夕食を済ませ、台所で片付けをしていると。
　カノンがもじもじしながらやってきました。
　なぜか手を後ろに回しています。
「にーちゃん、あの、あのね」
　カノンはなんだか恥ずかしくて、うまく言葉が出ません。
「どうした、カノン？」
　いつもの鋭い眼光は影を潜め、レオンは少し柔らかい調子で声をかけます。
　カノンは思い切ってぬいぐるみを差し出しました。
「……ぬいぐるみ？」
　それは、小さな猫のぬいぐるみでした。
（誕生日にはまだ早いのに）
　不思議そうな顔をしているレオンに、カノンは言いました。
「今日、父の日でしょ？」
「ああ」
「本当はお父さんにありがとうって言う日だけど……おれにとっては、にーちゃんがお父さんみたいなものだから」
　思いがけない言葉に、レオンは目を見開きました。
「……そうか。俺が……」
「……いや、だった？」
　不安になってそう聞いたカノンを、突然レオンは抱きしめました。
「そんなことねえよ。ありがとうな」
　笑ったレオンにつられて、カノンも子供らしい笑顔を見せました。
（……今年からは、父の日が好きになれそうだ）　
　レオンはそう思ったのでした。

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