仮のちぎりを　いかで結ばん｜リアクション

仮のちぎりを　いかで結ばん

「……この子を野生に返すため、できること……」
今日自分がやってきたこと。それはいい結果を生んでくれるだろうか。大天使天吏は慕わしげな視線を向ける、小さな黒い鳥の前で考える。
ふと気がつくと、御巫時子が隣に来ていた。二人はまなざしを交わすだけで、同じ思いを抱いていることを確認する。鳥を愛し、鳥を想う少女二人は、飛べない鳥を見つめた。

と、その時扉が開いて、生徒たちがどやどやと部屋に入ってきた。時子は肩をびくりと震わせる。天吏は幾分険しい表情をして集団に向き直った。
「きゃっ!?」
「……もう始まるの？」
「そのつもりです、先輩。御巫、脅かして悪ぃ。よかったら参加してくれないか？」
そう言ったのはクラスメイトの握利平だった。
「何が始まるんですか……？」
「ちぎりの将来をみんなで考える、『ちぎり会議』さ」

「ちぎり会議だって？」
「ああ、なんかあの妖怪捕獲事件に関わった連中が、正体の鳥をどうするか考えるらしい」
「かわいいったってカラスでしょ？　時々うるさいし、何とかしてほしいわ」
「あいつらも物好きだよなぁ。野鳥の扱いは面倒だぜ？」

　そんな声も飛び交っていたが、それに怖じるものはここにはいない。結果少なからずカラスのちぎりに関わった生徒たちが、決して広くはない用務員室にぎゅうぎゅうに押しかける事態となった。が、武治はおだやかな顔でそれを見守っている。きょう、こうなることはわかっていたし、彼自身それにゴーサインを出したのだから。いわば生徒たちと武治は静かなる共犯者であった。
「狭い所だけど会議に使っておくれね。ただ、私は設備のチェックがあるから……」
「ちぎりは私たちが見ておきます。部屋も汚したりしないので心配しないでください」
神野美野梨がそういうと、頼んだよ、と言い残して武治は放課後の作業に出かけていった。あとにはバケツに収められた奇妙なカラスと生徒たちが残される。

　「みなさん、本日はお集まりいただきありがとうございます。会議の取りまとめをさせていただきます、一年の森蓮です。よろしくお願いします。本日は往診に来てくださっていた『たちもり動物病院』の院長さんである日月透先生にご参加いただいています」
透は立ち上がって生徒たちに一礼する。会議室から持ち込んだテーブルを並べ、その周りに生徒たちと透が座る。全員、背中は壁にギリギリで、発言する時に立つのがやっとだ。窮屈な席には人数分のお茶とケーキが用意されている。話し合いが少しでも和やかに進むようにとの、霧切翠子の心遣いだった。
「霧切先輩、このようなお心遣い、ありがとうございます。ですが、よけいな負担をおかけしてはいないでしょうか」
「いいのいいの！　れーくん、司会大変だと思うけど、応援してるから」
誠心誠意感謝を述べる蓮に、翠子はいつものように明るく笑った。

「待て待て。俺も参加する」
会議が始まるかという段になって、邪衣士が滑り込む。
「どうぞお入りになってください。邪衣さんを参加者に追加します」
翠子は狭い室内で精一杯手を伸ばして、士にケーキとお茶を差し出した。
「ずいぶん集まったもんだなぁ」
「これだけちぎりを気遣っている奴がいるってことさ」
「なんかむさくるしいのだー」
「ケーキ！　ケーキ！」
秘密の会議場に、ひそひそとそれぞれの思いを抱いた生徒たちの声が広がって行く。その声は、司会進行役の蓮が語り出すと同時にすっと収まった。

「では、ただいまから『ちぎり会議』を始めたいと思います。この会議によって、みなさんが納得できる結末を得られることを願っています」
蓮の声が響く。机の中ほどにはちぎりの入ったバケツが置かれた。いつもよりずいぶんと高いところに移されて、落ち着きなくきょろきょろとあたりを見回している。