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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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仮のちぎりを いかで結ばん
ピアニストと野鳥が遊ぶ、ほほえましい光景を前に、猫村 翡翠はつぶやいた。
「あの子、自然に帰さなくちゃいけないよね」
「……ああ」
逆巻 天野が答える。
「ちぎりの能力には、なにか意味が、ううん、理由があるはずだ」
「だろうね。思ってることがあるなら、聞くよ」
「うん。きれいな水は、その答えの一部だと思うんだ。きっと、何かの望みがあったかもしれないって。どうしても求めなければいけないものがあったんじゃないかな。求愛だとか、どうしようもない渇きとか……」
「ちぎりさんに自分が感じたものも、それと関係があるのかもしれませんね……」
氷雨 潤一の心を去来するのは、ちぎりから感じ取った、よどんだ心の色。とても若鳥のものとは思えない。
弾むような調べを聴きながら、潤一、天野、翡翠はちぎりの将来を案じる。
「チョーさん。肩、揉みましょうか」
市橋 誉の申し出にいやいやいやいや、と恐縮する長南 武治だったが、ついに根負けして椅子に座った。遊び疲れたのか、ちぎりのまぶたは閉じかけている。
「ちぎりちゃんのお世話のほかにこんなことまでしてもらって。申し訳ないねえ」
「いいんですよ。ピアニストは指の力がありますから、肩もみは大得意なんです」
「ああ……たしかにねえ。これは、極楽、極楽と言いたくなるよ」
まるでおじいちゃんと孫のようだ。和やかな雰囲気の中で、誉は気になっていたことをひとつ、武治に問うてみる。
「チョーさんはちぎりが、ただの病気だと思っていますか？」
「いいや。何か違うとは思ってるよ」
武治は背を向けたまま、ぽつりと答える。
「ただね。こんなにたくさんの生徒さんたちがちぎりちゃんを大事にしてる。不思議な症状に文句をつける子は誰もいない。だったら私みたいな年寄りがけちをつける必要はないさ」
この人が味方でよかった。その感謝を込めて、誉は老いた用務員の肩を揉む。
「預かってからすぐにね。県に問い合わせてみたんだ」
武治は彼の視点からの、トレペ事件のその後を誉に語る。
「答えはね。保護しないでくださいというものだったよ。カラスは害獣扱いだから、保護を申請してもなかなか通らないんだ。ケガをしていると嘘をつくのも考えたよ。でも、証拠を出せと言われたら、あの子の姿を見せなくちゃならない」
重い重いため息のあと、武治は一言だけ、弱音を吐いた。
「力になれなくてすまないね。あの子を、頼むよ」
大天使 天吏は無言でちぎりと向かい合っていた。手を伸ばし、のどの辺りをくすぐってやる。小さなカラスは親しみを込めてクウと鳴いた。
（……あなたの望んでいることはなに？ ……こんな牢獄に囚われることでないのだけは、わかる）
今日の天吏の行動は、奔走といってよいほどのものだった。用務員の長南 武治に、ちぎりの『奇病』はきっと治せる、自分たち生徒が最善の方法を見つけ出すから、その話し合いを――学校側に知られずに進めるために――用務員室で行わせてくれないかと頭を下げた。信じてもらえるかわからない、その賭けにすら天吏は全力で乗った。
「……チョーさん。私たちの中には、ちぎりに起きたことを理解できる、不思議な力を持った人がいるの。……私も、たぶん、そう」
そう切り出した天吏の言葉を武治がどこまで理解できたかはわからない。だが彼はいつものようにそうだねえ、といい、天吏の言葉を信じ、善意の企みごとを認めてくれた。大きな収穫だった。
生物教師の牛瀬 巧先生のところにも出向き、学校側の見解を尋ねた。やはり野生動物の正しい意味での『保護』の観点から、学校で野鳥をかくまうようなまねはできないこと、一週間は最大限の譲歩であるということを伝えられた。
「堪忍な。気持ちはようわかるで。そやけど学校としてはそこは曲げられんでな」
天吏の考えも根っこの部分では学校の言い分と同じなのだ。野生動物は自然の中で暮らしてこそ美しい。哀れに思っても、人間が飼っていいものではない。それでも、天吏は子ガラスの命を救いたかった。タイムリミットの中でできうる限りの努力をしたくて、彼女は動いた。
「……精一杯努力します。鳥獣保護法に反しない範囲で、生徒たちで解決法を見つけます。……どうか、しばらくの猶予をください」
天吏は何を考えているのか図りかねる生徒である、と言うのが多くの教師の印象であった。その本人が自ら自分の前まで足を運び、真摯な意見と自分の意思を述べ、深々と頭を下げている。牛瀬先生はその思いに応えてやりたいと感じながらも――満足の行く言葉をかけてやれずにいた。
「あの子、自然に帰さなくちゃいけないよね」
「……ああ」
逆巻 天野が答える。
「ちぎりの能力には、なにか意味が、ううん、理由があるはずだ」
「だろうね。思ってることがあるなら、聞くよ」
「うん。きれいな水は、その答えの一部だと思うんだ。きっと、何かの望みがあったかもしれないって。どうしても求めなければいけないものがあったんじゃないかな。求愛だとか、どうしようもない渇きとか……」
「ちぎりさんに自分が感じたものも、それと関係があるのかもしれませんね……」
氷雨 潤一の心を去来するのは、ちぎりから感じ取った、よどんだ心の色。とても若鳥のものとは思えない。
弾むような調べを聴きながら、潤一、天野、翡翠はちぎりの将来を案じる。
「チョーさん。肩、揉みましょうか」
市橋 誉の申し出にいやいやいやいや、と恐縮する長南 武治だったが、ついに根負けして椅子に座った。遊び疲れたのか、ちぎりのまぶたは閉じかけている。
「ちぎりちゃんのお世話のほかにこんなことまでしてもらって。申し訳ないねえ」
「いいんですよ。ピアニストは指の力がありますから、肩もみは大得意なんです」
「ああ……たしかにねえ。これは、極楽、極楽と言いたくなるよ」
まるでおじいちゃんと孫のようだ。和やかな雰囲気の中で、誉は気になっていたことをひとつ、武治に問うてみる。
「チョーさんはちぎりが、ただの病気だと思っていますか？」
「いいや。何か違うとは思ってるよ」
武治は背を向けたまま、ぽつりと答える。
「ただね。こんなにたくさんの生徒さんたちがちぎりちゃんを大事にしてる。不思議な症状に文句をつける子は誰もいない。だったら私みたいな年寄りがけちをつける必要はないさ」
この人が味方でよかった。その感謝を込めて、誉は老いた用務員の肩を揉む。
「預かってからすぐにね。県に問い合わせてみたんだ」
武治は彼の視点からの、トレペ事件のその後を誉に語る。
「答えはね。保護しないでくださいというものだったよ。カラスは害獣扱いだから、保護を申請してもなかなか通らないんだ。ケガをしていると嘘をつくのも考えたよ。でも、証拠を出せと言われたら、あの子の姿を見せなくちゃならない」
重い重いため息のあと、武治は一言だけ、弱音を吐いた。
「力になれなくてすまないね。あの子を、頼むよ」
大天使 天吏は無言でちぎりと向かい合っていた。手を伸ばし、のどの辺りをくすぐってやる。小さなカラスは親しみを込めてクウと鳴いた。
（……あなたの望んでいることはなに？ ……こんな牢獄に囚われることでないのだけは、わかる）
今日の天吏の行動は、奔走といってよいほどのものだった。用務員の長南 武治に、ちぎりの『奇病』はきっと治せる、自分たち生徒が最善の方法を見つけ出すから、その話し合いを――学校側に知られずに進めるために――用務員室で行わせてくれないかと頭を下げた。信じてもらえるかわからない、その賭けにすら天吏は全力で乗った。
「……チョーさん。私たちの中には、ちぎりに起きたことを理解できる、不思議な力を持った人がいるの。……私も、たぶん、そう」
そう切り出した天吏の言葉を武治がどこまで理解できたかはわからない。だが彼はいつものようにそうだねえ、といい、天吏の言葉を信じ、善意の企みごとを認めてくれた。大きな収穫だった。
生物教師の牛瀬 巧先生のところにも出向き、学校側の見解を尋ねた。やはり野生動物の正しい意味での『保護』の観点から、学校で野鳥をかくまうようなまねはできないこと、一週間は最大限の譲歩であるということを伝えられた。
「堪忍な。気持ちはようわかるで。そやけど学校としてはそこは曲げられんでな」
天吏の考えも根っこの部分では学校の言い分と同じなのだ。野生動物は自然の中で暮らしてこそ美しい。哀れに思っても、人間が飼っていいものではない。それでも、天吏は子ガラスの命を救いたかった。タイムリミットの中でできうる限りの努力をしたくて、彼女は動いた。
「……精一杯努力します。鳥獣保護法に反しない範囲で、生徒たちで解決法を見つけます。……どうか、しばらくの猶予をください」
天吏は何を考えているのか図りかねる生徒である、と言うのが多くの教師の印象であった。その本人が自ら自分の前まで足を運び、真摯な意見と自分の意思を述べ、深々と頭を下げている。牛瀬先生はその思いに応えてやりたいと感じながらも――満足の行く言葉をかけてやれずにいた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2013年07月25日
- 参加申し込みの期限
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- 2013年08月01日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2013年08月01日 11時00分
