霧中の獣｜リアクション

霧中の獣

「これは……大変な事になっているな」

　自室で寛いでいた八神修はねこったーにて現在、寝子島を襲っている異変について知る事となる。
　突然の深い霧とその中で現れる霧の獣。どうやら霧の獣は無差別に人を襲うらしくこのままだと大変な事になるだろう。

　台所や車庫等から蓄圧式粉末消火器、懐中電灯や木刀を用意する。
　ねこったーの様子を見る限りでは、既に解決に向けて動いてる人達が他にもいるようだ。ならばと、修は星ヶ丘を何とかするつもりでバイクにエンジンをかけた。

「む……」
『グルルルルル』

　襲われている人がいないか注意しながら霧の中をバイクで走行していると、待ち構えるようにして二足歩行の霧の獣が唸り声を上げている。
　安全の為というのもあったが、獣が気付くようにライトを点灯していた為に修の存在に気付きこうして待ち構えていたのだろう。
　紅に輝く瞳は既に修を襲う事しか考えていないようで、彼から目を逸らすという事はしない。

「こっちとしても手っ取り早くて良いけどな」

　獣が襲いかかって来る前にバイクを止めて降りると修はそんな風に呟く。向こうからこうして来てくれる分には寧ろ有り難い事だった。
　持って来た装備を用意しつつ、獣と相対しながら近くにあった壁を背にするように後ずさる。
　壁を背にしてしまうと逃げるスペースが減るが、後方から別の個体に襲撃される事もなくなるし何より相手が襲いかかってくる方向が限定される。そうなれば、持って来た装備による迎撃もし易くなるというのが修の考えだ。

『ガオォオオッ』

　口を大きく開け鋭い牙をこれ見よがしに見せながら飛びかかってくる獣。この獣はこうして爪や牙を見せれば獲物が怯む事を知っているのだ。
　だが、今回の相手はただ狩られるだけの獲物ではない。何かを勢い良く噴出するような音が辺りに響く。

　それは修が用意していた消火器が使用された音だ。消火剤の粉が勢い良く噴出され油断していた霧の獣を迎撃する。
　これには予想外だったのか霧の獣は思わず大きく距離をとって後退する。頭を振りかぶっているのは目辺りにも消火剤がかかったのかもしれない。
　しかし、この好機をただ黙ってみている修ではない。

「はぁあああああっ！」
『グガァッ』

　頭を振りかぶっている霧の獣に対して木刀を横薙ぎにして攻撃する。
　当然ながらそれに対応出来ていなかった獣はまともに喰らって吹き飛ぶ。

　消火器による攻撃は恐らくは獣の知識にないであろう手段で隙を突くというのもあったが、修の狙いはそれだけではない。
　目潰し効果に加えて、粉を付着させる事で霧になる能力を封じるという狙いもあった。そういった能力がある事はねこったーで既に把握していたのだ。

　霧になる事も出来ず、視覚を潰された獣はすっかり混乱の中だが修は容赦はしない。
　眉間を突きによって強打し、その場で一回転してその遠心力を利用して更に強力な一撃を獣へと加える。

　獣とてそれでもただやられるままにはなっていない。何とか対抗しようと爪を振り回してはみるのだが、視覚が不完全な中ではそれも対処は十分可能だった。
　振り回す爪をいなし、その勢いのまま獣の胴を払うように薙いで吹き飛ばす。

「これでトドメだ！」
『ゴガッ』

　吹き飛んだ獣に対して勢いをつけて飛びあがってからの体重を乗せた突きで頭を突き刺す。
　霧であるが故にか修が予想していたような手ごたえはなかったが、その一撃はどうやら致命的であったようで、獣は身体を痙攣させると端から霧散していく。

「よし、倒したか……。だけど、この獣は一体何なんだ？　この霧は恐らくこいつらが原因だと思うけど、問題なのは獣によって霧が発生しているのか、霧が獣を産み出しているのか……」

　周囲が安全な事を確認して、修は考察を始める。しかし、ねこったーを見ても情報は多くない。考察をするには情報が足りなさすぎた。
　他にも獣がいるかもしれないし、何か情報を得れるかもしれないと再び修はバイクで移動していく。

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