上空に夏らしい巨大な積層雲が観測された、その翌日のことだ。
その日の寝子島は、深い霧にけぶっていた。
「嫌なお天気だなぁ……」
通い慣れているはずの通学路。
伊藤 佳奈が歩いているのは毎朝のように通る道だったが、どこもかしこも真っ白に染め上げられて、数メートルの先も見とおせない。
霧はどこかうねるように立ち込めていて、まるで生き物みたいに思えて、佳奈は眉をひそめる。
「うわあああっ!?」
「! な、何?」
突然、霧の向こうから男性の悲鳴が届いた。
佳奈はあまり気の強いほうではないが、毎日鍛錬に勤しんでいる剣道の経験が生きたのかもしれない。いつも持ち歩いている竹刀のケースを握り締めると、声のしたほうへ駆け出した。
霧をかき分け進むと、通勤途中だろうスーツ姿の男性が倒れ込んでいる。
男の腕には、三本の爪痕のような傷が刻まれていた。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「ああ……突然、誰かに斬りつけられて」
「ええっ。と、通り魔……?」
「いや。誰か、というか……ちらっと見えただけだけど、あれは、なんというか……」
男の腕に応急処置を施したところで、再び悲鳴が響く。近い。
自分は大丈夫だから、という男を置いて、佳奈は再び駆け出す。ケースの留め紐を解き、竹刀を取り出した。
霧の中で、何かが起こっているらしい。佳奈はごくりと唾を飲み込む。
「大丈夫ですか!?」
霧の向こうへ飛び込む。寝子島高校の女生徒が倒れ込んでいた。気を失っているらしい。
助け起こそうと足を踏み出したところで、
「な……なにこれ……!?」
佳奈は見た。
霧が濃く、白く収束していく。霧が形を成していく。
それは驚くほどに白い、狼とも熊とも虎ともつかない奇怪な獣だった。人間のように後ろ足で立ち、両の前足にはナイフのように鋭く長い爪が伸びている。目だけが赤くぎらつき、周囲を満たす白の中で浮かび上がって見えた。
「うわ……」
獣の赤い瞳が、明らかな敵意を持って佳奈を捉える。
慌てて竹刀を構え、精一杯の虚勢を張り、獣を睨みつける。剣道の試合とは異なる張りつめた緊張感が、佳奈を満たしていく。
「よく分からないけど……。
これ以上、傷つけさせないから!」
霧の中に秘められた、静かな戦いが始まった。
こんにちは、昂祈です
まずは伊藤 佳奈さん、ガイドに登場してくださりありがとうございました。
ご参加いただける場合は、ガイドに関わらず自由にアクションをかけてください。
概要
深くて濃い霧が寝子島全体を覆い隠した、とある日。
神魂の影響か、霧が獣の形を成し、人々を襲い始めました。
既にあちこちで被害が出ているようで、ねこったーなどを中心に、霧の中に何かいる! と噂になり始めています。
放っておけば、怪異の存在が一般人の前にさらけ出されて、フツウは壊れてしまうでしょう。
獣は何匹もいるようですが、迅速に全て倒すことができれば、噂はあくまで噂として留まり、
いつもの平穏を取り戻すことができるはずです。
霧をかき分け獣を見つけ出し、退治してください。
霧の獣
獣は、霧に擬態しています。見つけづらいものの、よく見れば瞳が赤い光を放っているのが分かるでしょう。
誰かを襲う時にだけ、獣は霧を集めて形を成し、姿を現します。
攻撃のチャンスは、獣が姿を現した時だけ。霧を攻撃しても直接的な効果はありません。
逆に、霧になっている間は、獣もまた攻撃することはできません。
噂によると、形を成した獣は非常に俊敏かつ強靭で、鋭い爪や牙で攻撃してきます。
また、霧となって攻撃を回避したり、逃走することもあります。
ただし、何らかの物体や生き物が触れている間は、霧になることができないようです。
またこの獣達は意識を共有した群体とでも言うべき存在であり、
つまりは個体でありながら群体でもあるという存在です。
その為、リーダーに該当する個体はいない為、討伐するには全ての個体を倒しきる必要があります。
獣の数は不明ながら、少なくとも10匹程度はいるようです。
旧市街、シーサイドタウン、星ヶ丘地区と、あちこちで目撃報告が上がっています。
自分がここだと思う場所を捜索してみてください。
備考
どなたでも参加できます。
バトルが苦手のPCも、武闘派じゃないとしても、工夫次第で活躍することができます。
ろっこんは自由に使用することができます。
ほしびとは、今回に限り、寝子島へ星幽塔の装備を持ち込むことができます。
星の力は、『星の力(虹)』のみ使用可能です。
以上になります。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしています!