霧中の獣｜リアクション

霧中の獣

「ン……霧の中にBeast？」

　マリナ・Ｍ・マディソンはその時たまたまねこったーを見ていたのだが、急に気になる情報が入って来たのだ。
　寝子島にていきなり深い霧が発生したというのは少し前に見たが、その霧の中から獣のような化け物が現れたと言うのだ。

「これは……正義のサイボーグの出番デス！　マリナ……Take offデス！」

　そう。マリナはこれでも正義のサイボーグを自称しており、人の役に立つ事こそがアイデンティティとなっている。
　そんなマリナからすれば無辜の人々が脅かされるのは見過ごす事が出来ない事態だ。友達やパン屋に来てくれるお客さん、そう言った知っている人達が襲われる可能性もあるとなればこうしてはいられないとばかりに走り出す。

「ねこったーをSeeする限り、霧は寝子島全体に広がってる……。なら、私は一先ずキムンカムイの周りをPatrolしましょう」

　マリナは注意深く辺りを観察し、何か異変があれば直ぐに駆け付けれるようにする。
　何でも霧の中にいる獣は霧が集まって出来たような存在みたいであった。紅の双眸に霧の体躯。二足歩行ではあるものの霧らしく不定形な獣のようでどういう動物なのかは定かではないとの事。

「あっ！？」

　すると、紅に輝く光が唐突に現れる。宙に浮かぶそれは確かに瞳の輝きのように見える。
　マリナがファイティングポーズを取ると、その意思を感じ取ったのか霧が集まり獣が実体化した。

『オォオオオォオオッ』

　虚空への雄叫び。それは今から獲物を狩るという宣言なのだろうか。
　雄叫びが終わると同時に白き獣は身を低くしてマリナへと駆け出す。獣らしい俊敏さを持つその速さはまるで暴風のようですらある。

「鬼サンこちら！」

　だが、既にろっこん『JETブースター』を発動していたマリナからすればそれでも遅い。
　ブースター噴射はマリナの身体を加速させる。獣を、風を、置いていかんとする程の速さ。

『ガアアアアァッ』

　しかし、獣とてただ翻弄されてはいない。本能によるものかマリナへと爪による一撃を見舞おうと反応して見せる。
　見せるが、それが当る事はない。マリナのJETブースターは本人の意思による加速と制動が可能だ。つまり、緩急をつける事が可能だという事。加速と制動を繰り返しながらまるでピンボールのように虚空を飛ぶマリナ。
　その美しき舞はまるで戦乙女か戦女神のようだ。だが、獣からすれば自らに死を齎すであろう死神なのだが。

　獣もその舞に対抗する為に四肢に力を入れ、追い始める。だが、そこにあるのは絶対的な差だ。
　絶対的な差といっても速さの差ではない。宙を飛ぶ事で立体的に動けるかどうかの差だ。機動力による勝負において片方だけが立体的な動きが出来るとなればそれは圧倒的なアドバンテージとなる。

『ガルアッ』

　腕を振るう。牙を持って噛みつこうとする。全てが空振りする。そして、空振りする度に苛立ちからか獣の動作が大きくなる。
　そして、幾度か繰り返したその果てに。マリナは勝負へと出る。

　今まで見せていた動きの中で少しバランスを崩したように見せる。獣はそれを待っていたとばかりに喜び勇んで牙を突き立てんとするが、それは罠だ。
　霧の獣の牙がマリナの脚を喰らいつこうとする、その瞬間。

「JET！！」

　霧の獣が喰らいつこうとした脚のその個所にブースターが展開される。それは獣の牙を通していない。
　そして、その状態から全開噴射を行い、獣の中をブースターの噴射を叩きこんだと思えば、そこから一気に再始動。

「Fire！！」

　高速で脚を振り抜き獣の頭を捉えたかと思えば、その勢いのまま後ろ回し蹴り。更には脚を振り上げてから振り下ろすかかと落とし。
　ブースターによって加速した脚の連撃に次ぐ連撃。高速と言うのも馬鹿らしい程の速度だ。

　マリナのスラッとした美脚を惜しげもなく見せるそれは男の観客でもいれば歓声ものだが、喰らう方からすれば堪ったものではない。
　とは言えども、一連の全てが終わった頃には息を切らすマリナしかその場にはいないのだが。

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