【星幽塔】第一階層　にじり寄る蛇影｜リアクション

【星幽塔】第一階層　にじり寄る蛇影

　アケーチ・タッマーキは鞭を振りながら、戦う前のことを思い出していた。最初に浮かんだのは悠月からろっこんを借りた時の事である。

「俺のろっこんを使え」

　悠月はこう言ってその白い手を伸ばした。凜としたその姿はどこか王のようだ。アケーチは彼の前に跪き、その手を取る。そして恍惚とした表情を浮かべ、呟いた。

「美しい方の力をコピーさせていただけるなんて……！」
「任せたぞ」

　虹色の光が煌めき、悠月の手を伝ってアケーチの身体とその周囲を舞う。そしてそれが彼に宿ったと見ると、悠月はふっと笑ってアケーチの手をするりと抜けだし、ハイドラの前へ躍り出た。

　クロスした風の刃がハイドラを切り刻む。アケーチが次に思い出したのは、ベルラたちと会った時の事だ。

「シーナさんとは以前共闘しましたが、ベルラさんの戦う姿が間近で見られるなんて……！」

　アケーチはベルラを見ると、いつもの調子で、感激したように羽をぱたぱたとはためかせては目を輝かせる。

「悦びで羽も溶けそうです……！」

　うっとりとそう言ったアケーチに、ベルラは普段とは違う口調でこう言って、溜息を吐く。

「お前を見てると時折不安になるぜ」
「野暮な話しは止してくれ」

　そのやり取りにどこか既視感を覚えるものの、お互い特に何か思い出すわけでもない。そうして、いつもならば言わないはずの言葉が口から零れ落ちたことに、揃って首を傾げた。アケーチはこの妙な出来事にキョトンとしたが、ベルラがハイドラとの戦闘に身を投じたのをきっかけに我に返って、自らもハイドラと対峙したのだった。

「修さんと美咲紀さんにばかり戦わせてはいけませんね……」

　こう言うとアケーチは自らの手にあるゴム製の鞭で地を叩き、白い羽を大きく広げた。ハイドラ第四の首は新たに増えた敵を睨みつけ、その出方を伺っている。

「さぁ、お仕置きの時間ですよ……！」

　空中を飛び交う矢や風の刃を避けながら、アケーチはその紫の首に鞭を叩きつけていった。首は縦横無尽に飛び回るアケーチを追い、他の首と絡まり合う。そこに鞭を振るうと、アケーチは微笑んだ。

「あぁ、愉しいですね……！」

　アケーチは戦闘で高揚していく心を隠さずに、鞭に呪術の光を宿す。そうして、ハイドラの頭部めがけてそれを巻き付けた。修と美咲紀の作り上げた渦に巻きあげられたそれは隙だらけで、鞭もくるくると簡単に巻きついて行く。そうして動きを制限されたハイドラは、呪術の光の力も手伝って明らかに弱り始める。

「修さん、今です！」
「助かる！」

　修はそれを聞いて空気の刃を作り始めた。その時、別の首が美咲紀に襲い掛かる。

「眠れ良い子よ～♪」

　しかしそれを、アケーチは虹の力を使って防いだ。悠月から借り受けたろっこんのトリガーは唄。アケーチの歌う唄によって、彼女の周囲に障壁が生まれる。

「ねんねしろ～♪寝ないと……」

　ハイドラの猛攻が過ぎたころ、アケーチの唄が終わるとともに障壁も消え去った。美咲紀はアケーチに礼を言ってから、杖を掲げる。

「ありがとうなのです……！」
「ふふ、あと少しですね……！」

　修との連携攻撃を、美咲紀はさすがのコンビネーションを発揮しながら何度もやり続けた。

「これで終わりです！」

　そうして、最初首を切り落としたときと同じように、仰け反ったハイドラの首へ大きな真空刃を放つ。断末魔の声を上げて、紫色の首はスッパリと切り裂かれた。両断された首はぴくぴくと動いたものの、暫しして止まる。

「やった……？」

　修がそう言い目を細めても、首は再生する気配を見せなかった。

「やったのです！」
「これで一安心、ですね……！」

　胸を撫で下ろすアケーチと、ぴょんぴょんと笑顔で跳ねまわる美咲紀が顔を見合わせ、笑い合う。残る首はあと一つだ。

このページにイラストを設定する