【遭難７日目】

　夜空には、満天の星が瞬いておりました。
「宴会なんだぜー！！」
　たき火の大きな炎がごうごうとうねりを上げる中、酒浸 朱蘭はぴっかり笑顔でそう宣言しました。
　がしゃんっと置いたのは朱蘭特製、ろっこん水を満たしたラム酒のボトルが一本二本三本……たくさん！
「こいつを飲んで、楽しく夜を明かそうぜ♪」
　朱蘭には、容器に水を満たすというサバイバルにおいてはチート級のろっこんを持ってはおりますけれど、それ以外の生活力もろもろに関しては、ぶっちゃけまして地を這うがごとしです。仲間たちに頼りっきりです。
　これは彼女なりの、みんなへのお礼なのかもしれません。
「はーいっ、ごはんだよー！　たくさんあるから、どんどん食べてね！」
　白 真白がお鍋のフタをぱかっと開けると、おお～！　歓声が上がりました。蛇鍋ですけれど、遭難生活ではどんなものであれ、お肉はご馳走なのです。
　そこへ、今度は合流した面々も食材をずんずん提供していくもので、今日の晩ごはんは驚くほど豪勢になりました。
　屋敷野 梢は、川で獲ったイワナにエビ、カニ、それにピラニアの干物を串に刺して、火で炙ります。なんとも香ばしい、この良い匂い！
「海水に３０分ほど漬けてから、海風で干したんです。自分で言うのもなんですけど、絶品ですよ！」
「うおっ、美味そうだな！　よし、俺たちからはこいつだ！」
　と言いつつ、御剣 刀は鹿肉豚肉イノシシ肉などなど、狩りでゲットしたお肉の焼き物盛り合わせをどかっ！
　お肉に偏ってしまうのもナンなので、朝鳥 さゆるが、食べられる木の実やキノコ、海草で作ったサラダを添えてくれました。これには、みんなが提供してくれた食材がふんだんに盛り込まれています。
「持ち寄ったもので、適当に作ってみたわ。どうかしら」
「うわーっ、すっごく豪華だねー！　それじゃ、食べよー！」
　にこにこな薄野 九月と、それに彼女の肩をがっしと抱いた朱蘭がろっこん水をかかげて、
「「かんぱーい！」」
　いただきます！　さっそくみんなでお肉にかぶりつき、はふはふもぐもぐ。ろっこん水もごくごくごくん。ぷはー！
「「「うんまーーーい！！」」」
　火山はまだもくもくと黒煙を上げているものの、噴火はひとまず落ち着いた様子。星空へ火口がぼんやりと赤い光を投影していて、いっそ幻想的なくらいです。
　遭難から、実に７日目。最後の夜は、驚くほど穏やかに過ぎていきます。
「おっと。ちょいと火が弱くなってきたか？」
　たき火の番は、如月 庚。彼はこれまでも、木をしゃこしゃこ擦り合わせる例のやり方で火を起こして、寒さをしのいだり食材を調理するのに一役買ってきました。
　ちょっぴり弱まってきた火の勢いに、薪をくべようとしたら、
「ふっふっふ。どうやらここは、僕のビームの出番のようだね！」
「待てまてまて。撃つな。構えんな。根こそぎ吹っ飛ばす気か。なんなら、そこの薪に火ィつけてくべりゃいい」
「なるほど、如月氏ナイスアイディア！」
　伊賀 解理がちゅどんっと着火した薪をたき火にくべると、炎はごうっと雄たけびのようにひときわ大きく燃え上がり、火の粉をちらちらと舞い散らせます。
　賑やかな宴会は、いつ終わるともなく続きました。



　彼らの合流地点、最後の宿となった神殿跡地には、どうやら謎が隠されているようです。
「ほら、ここ。壊れそうですよね？」
　水上 桜がこつんと指でつついた壁には、いくつもの亀裂が走っています。それらをなぞって、八神 修は結論付けました。
「なるほど。この向こうに部屋があるようだな」
「もしかしたら、ここにも猫さんの絵があるかも……！」
　ちょっぴり興奮気味な恵御納 夏朝。洞窟で見つけた猫の絵がここでも見つかるかもしれない、という期待に、目をきらきらと輝かせております。
「開かないですかね、これ」
「分解してみるか」
　と、修が壁に手を添えた、その時に。
「エロにおまかせなのですー」
「あっ！　ちょ、ちょっとなにする気ですか……！？」
　桜が止める間もなく、みょんみょんみょんみょん。大きくなったエロ・イーアールオーが、巨大キックをイチゲキ！
　どっかーん！
「ほら。開いたのです」
「もぉー、乱暴なことを……あっ！」
　すっかり崩れ落ちた壁の向こうには、細長い部屋がありました。
　部屋はがらんとして、あまり飾り気もありません。けれど、その奥に置かれているものを見て、彼らは思わず目を見開きました。
「あれって、もしかして……」

「宝箱だー！」
　だっ！　真っ先に駆け込んだのは、千歳飴 楓子！　死んだような色をしていた目が、今だけはぴっかりこんと輝いております。
「あっ、ずるいですよ！」
「ずるいのですー」
「なに、気にするな。楓子が今までに開けた宝箱の数を知っているか？　罠がかかっているかもしれないし、ここは楓子の解錠スキルに任せてくれ」
　ソーシャルゲーム禁断症状のためか、あいかわらずゲームと現実をごっちゃにしている楓子。勢いよく走り出したまでは良かったものの、
「わーーー」
　転がっていた壁の破片にけつまづいて、すってんころりん。宝箱にぶつかって、どんがらがしゃん！
　箱には鍵もついていなかったようで、中身が派手にぶちまけられ、ころころころんと床に転がりました。
「これは……！」
　そのひとつを拾い上げて、夏朝はぱあっと目を輝かせます。
　それは可愛らしい猫の顔を模った、色とりどりのキレイな、ガラス玉でした。
「やっぱり、ここには……『ねこだい文明』があったんだ……！」
「ね、をつけちゃうんだな」
　苦笑いしつつ、修も猫のガラス玉を拾い上げます。
　この島にはかつて、たくさんの『ねこ』たちが暮らす古代文明が栄えていたのかもしれません。そんな光景を頭に思い浮かべて、彼らの胸はほっこり、あたたかくなりました。



　みんなが島の反対側で宴会をしているとはツユ知らず。結局、タイラ・トラントゥールと源 竜世が、ほかの人たちに気づくことはありませんでした。
　それでも、ふたりにとってここは、孤独な島ではありません。
「へへっ。無人島ぐらしも、悪くないもんだなー♪」
「あれだけのトラブルに見舞われてもか？　まったく、どこまで能天気なんだお前は……」
「だって、タイラがいるもん。なにが来たってこわくねーし！」
　呆れるタイラ。にかっ！　笑う竜世。
　ふたりはしんと冷える夜気に肌をさらすと、そのままくっついて、ぱさりといっしょに毛布をかぶります。
　ふたりだけの島だって、こうしていれば怖くはありません。寂しくありません。
「おやすみ、タイラ！」
「ああ……おやすみ、竜世」
　枕元には、道すがらに見つけた、可愛らしい猫の形のガラス玉がふたつ。









　……こうして、あれよあれよという間に、７日間の遭難生活は終わりを告げました。
　翌朝、彼らは寝子島の、いつもの寝床でぱちりと目覚めました。ひょっとして、夢だったのかな……？　なんて思ったところで、気づくのです。
　枕元にころり、ころがっている、猫の顔をしたガラス玉に！
　可愛らしいねこたちがにゃあにゃあと手を振っている楽しい光景がまぶたの裏によぎり、彼らは思わず、にっこり。微笑むことでしょう！