ミントグリーンのひと時を　―或いは静かなる碧の侵略―｜リアクション

ミントグリーンのひと時を　―或いは静かなる碧の侵略―

「慎之介くん」
「あっ、月守！　お前も来てたのか！　ふふ、こうして仲のいい友達と会えてラッキーだよ」
　『友達』という言葉に輝夜の胸が少し軋む。だが輝夜は内心で首を振ってやんわりとほほ笑んだ。
「それ、ミントティー？」
「そうだよ。少し大人に見えないかい？」
　そういう彼に思わずくすり、と笑ってしまう。……彼らしい、と。
　輝夜がそれとなく隣に座っていいかと聞けば、笑顔で「いいよ」と答えてくれた。
「いい香りね。飲んだことはないけれど、興味はあるの。おいしい？」
「思った以上に飲みやすいし、すっ、とする感じがグッドだよ。輝夜も飲むか？」
「うんっ」
　彼に勧められたのもあり、輝夜もさっそく頼むことに。運ばれたミントティーを受け取り、さっそく飲んでみた。
　冷えたミントティーは、するりと喉に落ち、鼻孔へ香りを送っていく。目が覚める清涼感に、輝夜はほぉ、とため息がついた。蒸し暑さもこのお茶があれば乗り越えられるのではないか、と思えるほどに。
「おいしい……。少し苦いけど、それがまたいいわ」
「だろー？　な、クールな味だろ？」
　慎之介が楽し気に笑い、つられて笑ってしまう。だけどこんな距離感が心地よくて……同時に少しじれったくなるのは……。
（慎之介くんの事が、本当に好きなんだ）
　そう、実感してしまう。
　胸の高鳴りに負けそうになりながらも、会話がしたくて輝夜は口を開く。
「そういえば、気になる商品はあった？　私はこれかな」
　そう言って先ほど購入したミントオイルを取り出すと、慎之介は「おぉ！」と興味深そうに眼を開く。
「ミントオイルか！」
「うん。今年の夏も暑くなりそうだから、寝るときに枕につけようかなって。使う？　よかったら貸すよ」
　輝夜の申し出に、慎之介は少し考える。そして彼はにっ、と笑った。
「俺もそれにしようかな。実はいろいろあって迷っていたんだ。どれもよさそうでさ」
　と、輝夜にそのオイルがどこにあるのか教えてほしい、と頼むのだった。

「ハーブのお店か。ちょうどローレルを切らしてしまった所だったからちょうどいい」
　そう言って店に入ったのは、鴻上彰尋。彼は口元をちょっとだけ綻ばせ、店内を見渡した。雰囲気の良い新しいお店をみつけた、とちょっとだけ嬉しくなる彰尋。さっそく香辛料のスペースでローレルを見つけ、ほかにも黒コショウなどよく使う物を籠に入れていく。
「えーっと、パプリカは……」
　と、探していると、「こちらですよ」といつのまにか若い男性が教えてくれた。
「ありがとうございます」
「いえ、ようこそ『ミントグリーン・モーメント』へ」
　そうにっこり笑う彼の名札を見ると、店主、と小さく書かれていた。外国の人だが日本語が流暢であることに少しだけ安堵する。
「あの、何かお勧めとかありますか？」
「今のおすすめはミント、ですね。これから暑くなりますから」
　そういいながらも店主のシグルトはちょっとだけ苦笑する。なんでも裏庭で大繁殖して困っているらしい。そんなことを聞いて「大変だなぁ」と思ったのもあったのか、ミントの商品も買ってみよう、と考える。
「これはミントスプレーか……」
　ミントキャンディーを籠にいれた時、別の棚にあったそれを見つけ、いいな、と胸がときめく。
「スプレーは虫除けにもなるし、ゴミ箱とか水回り、三角コーナーとかの殺菌や匂い消しにも使えるんだ、いいかも」
「よくご存じですね。お料理とかされるのですか？」
「はいっ」
　シグルトが感心したように頷き、「いいことですね」とほほ笑む。そのさわやかさにも好感が持てるようだった。
（やっぱり、いいにおいがするのはいいよね）
　彰尋はにっこり笑ってミントスプレーも籠に入れたのだった。

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