魔界すごろく！｜リアクション

魔界すごろく！

◆みんなで遊ぼう魔界すごろく！　～１～

　寝子島のおもちゃ屋では、『魔界すごろく』が大々的に売り出されていた。学校帰りのこの時間は小学生の他にも中学生や高校生がおもちゃ屋を訪れては商品を買って行く。

「ん？」

　その店先で、倉前七瀬は平積みされていた『魔界すごろく』の箱を目にし、立ち止まった。七瀬は箱を手に取ると、裏に書かれているルール説明を、厳密に言うと活字をじっと読み込む。

「わー、おもしろそうですねぇ」

　それを読み終えると、なんだか同級生の神嶋征一郎と遊びたくなってきた。七瀬は箱を手に取ると、レジへ向かう。列の最後尾に並ぶと、見慣れた赤毛が目に入って七瀬は思わず名前を呼んだ。

「あれ、紅葉」
「七瀬君？」

　これまた同級生の丹羽紅葉だった。紅葉は柔らかい微笑を湛え、七瀬に振り向く。

「紅葉も『魔界すごろく』ば買うんですか」
「ええ。弟がやりたがってたから」
「なるほどー。家族思いなんですねぇ」
「七瀬君は？」
「征一郎とやるんです」

　そうこうしているうちに紅葉が会計に行ってしまい、会話は途切れた。

　二人がおもちゃ屋から出ると、同じ袋を手にしたロベルト・エメリヤノフが前を通っていく。隣には彼の好みそうな美少年が並んでいた。

「よし！　これからコレで賭けすごろくしようよ！」

　ロベルトは屈託のない笑顔でそう言うが、美少年はなんだか乗り気ではないようだ。それでも！　とロベルトが言うと、美少年は近くにあったショーウィンドウに飾られた時計を指差して怠そうに口を開く。

「えー……じゃあロベルトが負けたらあの時計買えよ」
「時計？　……うっ……う、うん！　……もちろん買うよ！！」

　値札には途方もないゼロが並んでいる。紅葉と七瀬は大丈夫だろうかと二人顔を見合わせながらも、いつものことなのでそのまま別れることにした。

「というわけで征一郎、遊びましょう」
「嫌だ」
「そんなこと言わずに」
「倉前、暇なのか？」

　試験勉強以来、征一郎は七瀬のことを苗字で呼んでいる。が、それが七瀬には不満で仕方がない。七瀬はじとーっと征一郎のことを凝視した。

「征一郎、僕のことはいつでも名前で呼んでくれてかまわんのですよ」
「名前はもう呼ばねぇ、諦めろ」

　ぷいっと視線を逸らした征一郎と目を合わそうと、七瀬は首を動かす。

「えー、なんでですか。ケチんぼですね」
「苗字と勘違いさせたてめぇも悪い」
「言いがかりです。ひどいです」
「強情な奴だな……自分が呼ばなくてもいいだろ」
「よくありませんー」

　そう言い合っているうちに、テーブルの上には『魔界すごろく』が広げられていた。

「……やらねぇって言っただろ」
「名前で呼ばないなら遊んでください」
「なんでそうなる」

　引く様子のない七瀬に折れたのか、征一郎はサイコロを手に取った。

「仕方ねぇ」

　しかし突然、眩い光に襲われて、二人は目を閉じた。