『CamicieＸrosse!!』へようこそ！｜リアクション

『CamicieＸrosse!!』へようこそ！

　平日の昼間。娘は学校、専業主婦で普段は家にいる妻も、友人と出かけて不在。
　ダンスレッスンもなく、家に一人きり。
　岡瀬靖久はなんとなくつけたテレビをぼんやり見ながら、ふと思った。
「……そうだ、ピザを食べよう」

　口に出すとますますいい案に思えてきて、靖久はスマホを取り出す。
　かける先は『CamicieＸrosse!!』だ。ずっとあそこのピザが食べたくて……次にピザを頼むならあそこだと決めていた。
　なぜなら以前食べて、その味に感動したからだ。
　でも、妻や娘もいたあのときならともかく、女の子ばかりのあのお店に、一人で食べに行くのは少し気恥ずかしい。
　前にチラシだか店頭の立看板だかで、宅配もしているとの文字を見たことがあって。そのとき、確か電話番号を登録していた気が……。
「あった」
　よかった、と思いつつ発信ボタンを推す。
　少し緊張しつつ発信音を数える。３回コールで電話がつながった。
『Ciao！　こちらCamicieＸrosse!!です』
「あ、すみません。宅配をお願いします。
　マルガリータと……あと、アロハ　ロアも」
　確か、前に頼んだのもこれだったはず。
　住所を教え、電話を切って――はーっと息を吐き出した。
「ああ、緊張した……」
　ピザの注文なんて、独身だったころ以来じゃないか？
　だけどやり遂げたぞ。
　あとは、いつ届くかだ。
「何と言っていたかな……ピザの宅配は、30分以内が普通だったか？」
　覚えていない。でもたぶん、そのくらいだろう。
　妙に落ち着かない気分でそわそわしつつ、到着を待った。
　やがてドアチャイムが鳴る。
『コンニチハ！　ピザをお届けに来まシタ』
「ああ、ありがとう」
　玄関先で受け取って、支払いを済ませ、テーブルに持ち帰って蓋を開く。
　まだほんのりと温かく、チーズのとろけるそれを一切れ取って口へ運ぶ。
（……おいしい……っ！）
　サクサクとした生地、チーズの濃厚さ、アロハ　ロアのパイナップルの酸味と甘味がみごとにマッチしている。
　そうだ、あのときもそう思ったんだった、と思いつつ、缶ビールを開けた。
　冷えたビールをおともに食べるピザは最高だ。いくらでも腹に入って、止まらない。
　２人の分も取っておこうと思いつつ、結局２枚とも平らげてしまった。
　空箱を見たら、「一人で食べるなんてずるい」と拗ねるだろうか？
　そうしたら、また頼めばいいか。
　一緒に店に食べに行ってもいいかもしれない。
　満足して、ゆったりとした気分で窓からの風に吹かれながら、そう思った。
　