『CamicieＸrosse!!』へようこそ！｜リアクション

『CamicieＸrosse!!』へようこそ！

　開店30分前。
　ロレッタ・ガトパルドは愛車のバイクで店に到着する。
　『CamicieＸrosse!!（カミチエ・ロセ）』は彼女の店、彼女の城だ。店が一国一城であるならロレッタは女城主であり、ここで働く店員たちは彼女の従順な配下の者だ。
　どの者も彼女がこの店にふさわしいと認めた者たち。
　であるならば、彼らにすべて任せておいてもいいのだが、ロレッタはそうしない。必ず週のうち何日かは店に立つようにしている。
　それは店の状態をダイレクトに把握していたいからだ。
　自分の目で見、肌で感じることは、日々提出される書類を見ているだけでは絶対に分からないことが理解できる。そうすれば時代の流れ、世俗の移り変わりにも柔軟に対応していくことができる。
「おはようございます、店長」
　裏口から入ってきたロレッタと最初に顔を合わせたのは、コックのウィリアム・キャップマンだった。
　数時間前から仕込みをしていたらしい彼の姿に、ロレッタは軽い頷きで満足を伝える。
「おはよう」
　まず向かったのは事務室だった。そこにある、今日入る予定の店員のシフトに目を通し、仕入れ業者の置いていった品目リストに目を通しながら倉庫へ行き、在庫数に間違いがないか確認をした。
「ン。いいわネ」
　自然と笑みが浮かび、指で紙をはじく。
　制服に着替え、髪を整えて、さあ出陣だ。
「みんな、おはよう」
「おはようございます！」
　店に入った彼女に、すでに開店準備を終えた店員たちが一斉にあいさつを返した。
　気持ちのいい、はきはきとした声だ。
「きょうから入る新人の子もいるわネ？」
「はい、店長。この子たちです」
　バイト生の落合まゆらが脇に寄って、ロレッタに見せた。
　まゆらもバイトに入ってまだ２カ月足らずだが、最初はへそ出し服って恥ずかしいと内心思っていた制服にもすっかり慣れて、先輩らしい落ち着きをまとっている。
「響タルトといいます。よろしくお願いします」
　はきはきとした声と満点の笑顔でタルトがあいさつをする。
「……よろしくお願いします」
　水上桜は控えめに。
　そして一番左にいるのは、厨房のエプロンをつけた坊主頭の男子高校生だった。
「俺……あ、いえ。自分は、糸目坊主と申します。きょうから、こちらの厨房に、立たせていただきます……、よろしくお願いします！」
　声からも緊張しているのがわかる、その初々しさに、ロレッタは思わずほほ笑んでしまう。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫。取って食べたりしないカラ。
　わからないことはどんどん彼に聞いて」
　ロレッタはウィリアムを指さした。厨房では彼がボスだ。
　ウィリアムが坊主に頷く。
「もちろんワタシでもいいワ。なんでも１から教えてア・ゲ・ル。
　なんといっても、アナタたちはファミリーなんだから♪」
「はい！　よろしくお願いします！」
　坊主は頭を上げ、すぐにまた下げた。
　自分が強面であることを自覚しているからだろう。
　しかしそういったことを気にするところも、年長のロレッタからすればかわいい男の子だ。
「ふふっ。
　さあ、開店ヨ。みんな、気合いを入れていきまショ」

「Ciao！　カミチエ・ロセにようこそ♪」
　
　

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