『CamicieＸrosse!!』へようこそ！｜リアクション

『CamicieＸrosse!!』へようこそ！

　がちゃん、と厨房で音がする。
　食器が割れた音だ。
　唖然とした様子で手の中で割れた皿を見ている糸目坊主にウィリアム・キャップマンが言った。
「そこはもういいから、向こうのサラダの盛り付けを手伝ってあげてちょうだい。
　露草ちゃん、この子に教えてあげて」
　はーい、と応えた青年の元へ近づく。
「よろしくお願いします」
　硬い口調になるのは、普段の自分が粗野な言葉遣いをしていることを自覚しているからだ。
　あと、目つきが悪いことも。
「そんな、かしこまらないでいいですよ。私も臨時アルバイトなんですから。あなたと同じデース」
　深縹露草はそんな彼を見て、ふふっと笑う。
「いや、しかし……」
　坊主はためらった。
　だからこそ、自分のいたらなさが身に染みて分かるのだ。
　露草は飲み込みが早く、仕事も丁寧で早い。自分とは大違いだ。
　口ごもった坊主が何を考えたか察した露草は、彼の気持ちを軽くしようと試みる。
「私が慣れているように見えるのは、普段から自炊しているからですよ。あと、他の場所で似たようなバイトをしたことがあるからデース。
　あなたはどうですか？」
「……今回が初めて、です」
「なら仕方ないですね。失敗も、よくあることデース。失敗しない人などいませんからね」
　どんまい、というようにぽんと腕を叩かれて、坊主は「はあ」と返した。
「さて。では盛り付けましょうか。使用する材料はこちらの容器に入っていますので、内容に応じて適量取ります。『旬の野菜のシャキシャキサラダ』ですが、私がすることを真似てください。
　ところでなぜこちらでバイトを？」
「……トレーニング器具を、新調するための……金がほしくて」
「なるほど。
　何をされているんです？」
「……ボクシング」
「ああ。それでそのお体なんですね。――あ、そこにミニトマトを置いてくださいデース」
　等々。坊主の緊張をほぐすために――彼がさっきからしている失敗は、緊張からくる力みだと察していたので――露草は話しかけ、坊主の注意が一点に集中しないように仕向けた。
「――はい、これで出来上がりです。簡単デースね？」
「あ、ああ……」
　坊主は今、自分が盛り付けたばかりのサラダ容器を見つめている。本当にこれを自分が作ったのか、という様子に、露草はほほ笑む。
「では『イカとエビのシーフードサラダ』にいきましょう。大丈夫デース、こちらも先のと同じようなもので、たいして難しくありませんから」
　にこやかに露草は作り方を教えると、彼にその作業を任せて自分はパスタ作りに回った。
　といっても、パスタを茹でて、注文が入り次第１人前ずつ分けたそれをウィリアムの手の届く位置に置く仕事だ。
　ウィリアムはそれらを用いて、手早くパスタを仕上げる。『モルタデッラとトマトのパスタ』、『パスタアーリオ』、『巌窟王のカルボナーラ』彼の作るパスタ料理はどれもおいしそうだ。
　その魔法のような手さばきを見て、露草は思った。
　今は作る側だが、ここはいつの日か食べる側として訪れたい店だと。
　

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