Six years ago｜リアクション

Six years ago

■6年前、ゲーム
（そうだ、あのカードなら……！）
　白真白の瞳が大きく見開かれた。
　高校２年生でありながら、幼く見える愛らしい容姿を持つ真白の手には一枚のカード。
　灰色の左目に光が灯り、それに呼応するように義眼である右目も輝きが増す。

　真白の趣味はカードゲーム。
　手持ちのカードで戦略を練り、そして時に運をも味方し相手に勝利する快感はなんとも言えない喜びがある。
　だが対戦は勿論、カードゲームプレイヤーにとって興奮するのは、新たなパックを購入し、開封する瞬間も挙げられるだろう。

　真白が新たに発売されたブースターパックを購入し、シーサイドタウンの自室で厳かにそのパックを開けば……出て来たカードはレアカード。
　しかし、レアだからと言って万能で最強とは限らない。
　少しクセのあるカードゆえ、真白はそのカードをデッキにどう組み込むべきか悩みに悩む。
　そんな中、真白は思い出したのだ。
　以前入手したカード。同じくクセのある一枚ゆえに、持て余していたあのカードならば、今日入手したレアカードと相性が抜群なのではないだろうか。
　頭の中で組み立てた戦略を早くその目で確かめたい。
　だが。
（あれ、どこだ…っけ？）
　カードが、見つからない。
　愛らしく小首を傾げる真白。美しく輝く真白の白い髪がサラリと揺れ、たわわな胸へと流れる。
（おかしいなぁ、確かここに……）
　思い当たる場所を調べる真白。
（……あれ？）
　お目当てのものは見つからなかったが、思わぬものが見つかった。真白が一つのロムを取り上げる。
「うわぁ、懐かしいなぁ……私、このゲームまだ持ってたんだ」
　思わず呟き、そのロム……一本のテレビゲームをまじまじと眺め。
（これ買ったの６年前だったっけ？うわぁ、懐かしい）
　笑みが零れる真白。卒業以来再会していない級友と偶然出会ったような感覚を覚えた。

　◇

　昔からゲームやアニメが好きだった真白。
　6年前……小学5年生位だろうか、行きつけだったホビー店の店頭でたまたまコントローラーを握った真白。
　当時の技術では斬新かつ美しいグラフィック、体験版という短い時間でありながらも惹きこまれる世界観。そして何より、知略を試され、また己で味方を自由自在にカスタマイズできるシミュレーションゲームに真白は魅了された。
（うわぁあ、欲しい！）
　小学生の真白、直ぐに財布を取り出し、中身を確認するが
（全然足りない……）
　クリスマスはおろか、真白の誕生日である2月まではまだまだ先。
（でも、このゲームは絶対欲しい……！）
　真白の灰色の瞳に、強い炎が灯った。

　帰宅するなり、真白は母へと頼みこんだ。
　どうしても欲しいゲームがある、と真白に言われた母の表情は真白の期待に応えてくれる気配はない。
「じゃあ……テストでいい点とったら買って」　
　ダメ？と不安げな眼差しで見つめる真白に、頷く母には後光が差していたような気がする。

　◇

（それから猛勉強して……買って貰えたんだよね）
　指でゲームソフトをなぞる。
　体験版での感動が小さなものに感じられる程、本編の完成度は高く。
　勉強の時以上に必死にそのゲームと向き合い、一度のクリアのみならず全てのルートを制覇し、また己のプレイに縛りをかけ楽しんだりもした。
（結局、何時間プレイしたんだろう）
　今も尚、ゲームは大好きだし、やりこんでもいる真白。
（久しぶりに、やってみようかな）
　6年前のあの頃の記憶と対峙するように。
　真白は、まだ取ってある古いゲーム機体を取り出した。すると
「あっ」
　引っ張り出したゲーム機体と共に、一つの小箱が現れた。
　その箱を開けば
（カード、ここにしまってたんだね）
　しばし、カードとゲームを見比べた後……
「よし、デッキ構築はまた後で、ね」
　真白はゲーム機の電源に指を伸ばすのだった。