詩歌句ノ怪｜リアクション

詩歌句ノ怪

「う、うーん……」

　ドロドロの怪物が通り過ぎるのを待つ柳之介の耳が、子供のうめき声をとらえた。柳之介はさっと子供に顔を向け、彼が起きるのを助ける。

「どこだここ？」
「えー……っと」
「旧市街じゃねえ……？」
「う、うん。そうなんだ。君、どうしてここに来たの？」

　子供はぱちくりと瞬きして、柳之介の顔を怪訝そうに見た。

「お兄さん誰？」
「お、俺は室井柳之介。君は？」
「オレは……源竜世」

　竜世は少し警戒を緩めて話し始める。

「学校に行くとこだったんだ。んー……またへんなとこ来ちゃったのかな……？」

　竜世はきょろきょろと辺りを見渡した。にゃおーん、と路地の上で大きな大きな猫がこちらを見下ろしている。この異様な光景にも関わらず、竜世はニッと笑った。

「まあいいや！　何とかなんだろ！」

　そして、冒険だ、とはしゃいで往来に出る竜世の後ろを、柳之介は不安そうに追いかけた。

　竜世が学校を休んだと聞き、タイラ・トラントゥールはモヤモヤとする胸を押さえ押さえ彼の家へと向かった。別に心配したわけじゃない。今日は予定がないからバトル相手にしようと思っただけ。他意はない。頭に次々と浮かぶ誰に聞かせるでもない言い訳を己に対してしつつ、タイラは急いだ。

　しかし竜世の家で聞いた事実に、タイラはふらふらと足から力を抜く。

「学校から帰ってきていない……だと？」

　応対に出た竜世の母親は、タイラの様子を心配そうに見ていた。

　――アイツは学校を休んだんじゃなかったのか！

　そう思いながらも、竜世の母親を誤魔化すように笑みを浮かべ、愛想の良い挨拶をすると何事もなかったように別れた。彼の家がタイラの後ろ遠く遠く離れていく。竜世の母親の視界から消えたと思うと、タイラは駆け出した。家から学校へ、通学路の中に竜世の姿がないか確認しながら戻っていく。

　――あのバカ！　学校にも行かずどこに行ったんだ！

　そう思っても、竜世の姿はどこにも見当たらない。タイラは心配で胸をいっぱいにしながら、大きく息を吸い込んだ。奪われていく体力、絶え絶えの息、うるさい心臓――。タイラはぎゅっと心臓を押さえ、ペースの落ちた足を引きずった。ノロノロと必死に動かす。しかし、長くはもたず壁に手をついた。心臓がまたバクバクと音を立てる。

　――どこにいるんだ……竜世っ。

　タイラは体勢を立て直そうと顔を上げた。その前に、書生姿の幽霊が、壁からぬらりと出てきては、タイラと目を合わせる。

「な、な……！？」

　タイラの心臓が止まりそうになった。

「やっぱ冒険の基本は家探しだよな！」
「そうだね！」
「というわけでお邪魔しまーす！」

　当の竜世と柳之介といえば、ゲーム感覚で状況を楽しんでいた。今は駄菓子屋のような店の中で、あれこれと棚を見ている。こういう風に様々な店を巡ったが、どの店も共通して、店員も客も居ない。時折外をギョロギョロと大きな目玉を頭に乗せた人間らしきものが通った。

「何か見つかった？」
「なんもねえ！」
「じゃあ出よう」

　そうして店を出ると、外はがらりと景色を変えて、入った時とはまた別の場所に出た。前にどんと布袋猫の姿が見える。

「あ！　七福猫じゃん！」

　竜世は手を合わせると、後ろを覗き込んだ。しかし抜け道があるわけでもなく、布袋猫の背負った袋がどーんと存在を主張していた。

「んー、どうやったら帰れるんだー？」

　竜世と柳之介は二人して首を傾げ、うなり、溜息を吐いた。

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