あの日のあとで３｜リアクション

あの日のあとで３

今日は一段と、眩しい世界

　煌びやかなパレードの光が、目の前を幾らも流れていく。
「綺麗だね、彰尋くん」
　と屈託のない笑みを鴻上彰尋へと向けた七夜あおいの手は、彰尋の手と、まだ柔らかく繋がれていた。
　はぐれないように、と繋いだ手。
　絡まる指先から、心音が、想いが、彼女に伝わってしまうのではないか。
　彰尋はそんなことを思って――けれど一層、指先に力を込めた。
「……追いかけてみようか」
「え？」
「パレード。追いかけてみない？」
　いいね、と、あおいが悪戯っぽく笑う。
「じゃあ、行こう」
　光の中を、人波をかき分けて、遠く、遠く。
　勿論、携え合った手はそのままだ。
（――なんて、綺麗なんだろう）
　魔法にかけられたみたいだ、と、思う。
　こんなにも、世界が眩しい。
　この手を繋いだまま、どこまでも、世界の果てにだって行けるような気がした。
「人、多いね。置いてかれちゃいそう」
「大丈夫だよ。大丈夫。どこまでだって行ける」
　そんな気がしない？　と小さく笑む。
　ふうわりと、柔らかな微笑が、返った。
「だね。よし、頑張ろう！」
　勢い込んだあおいの方が、彰尋の手を引く形になる。
　その後ろ姿は、眩く輝くどの山車よりも鮮やかに見えた。
（こんな風に、二人で出かけることが出来て）
　繋がれたままの手の温度が、どうしようもなく嬉しくて、幸せで。
（夢に見た告白とは違うシチュエーションだけど、でも――）
　今日、今、まさにこの瞬間だって特別な時だと、彰尋はしみじみと噛み締めた。
　瞬間、花が開くように、胸の内に咲く想い。
（こんな風に、これからも一緒にいたい）
（この気持ちは変わらないから）
（いつか、言えなくなってしまう前に）
　今とこれからを大事にしたいから、だから、そう。
　――いま、きみに好きなんだと言おう。

　パレードの光が、消える。
　訪れた暗闇の中で、あおいが残念そうに零した。
「あーあ、終わっちゃったね」
「そうだね。……でも、楽しかった」
「私も。子供の頃に戻ったみたいな、そんな気がしたっていうか」
　あおいがころころと笑う。
　あまりにも眩い光を追いかけていたせいでまだ夜の色に目が慣れないけれど、
（あおいさんの笑顔は、見える）
　ずっと、ずっと、愛おしく思ってきたものだから。
　闇の中に浮かび上がるように、彼女が今どんな風に笑っているのか、それが確かに見える気がした。
　もう長らく繋いだままの手を、痛くないように、けれど強く、きゅ、と握り直す。
「……彰尋くん？」
　そこに、常とは違う色を感じ取ったのだろうか。
　あおいが、彰尋の名前を呼んだ。
　不思議がるような色が滲む、あどけない声。
　夜の真ん中で、彰尋は一つ息を吐き、呼吸を整えた。そして。
「……今日は一段と、世界が眩しいよ」
　そっと、滑らかな声で、そう零した。
　あおいの指先が、ぴく、と跳ねる。
　徐々に夜闇に慣れてきた目に、彼女の、虚を突かれたような顔が、ぼんやりと映った。
　この言葉を覚えていなくて、突然のことに当惑したのか。
　それともその意味を確かに覚えていて、だからこそ驚いたのか。
　闇が煙る中、そこまでは読み取れない。
　だから彰尋は――にこ、と彼女にいつものように笑みを向けた。
「帰ろうか。すっかり、遅くなってしまったし」

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