大変だ！なんかにょろにょろし始めた｜リアクション

大変だ！なんかにょろにょろし始めた

●昼過ぎ、シーサイドタウンにて

　陸上部の練習が休みの、日曜午後。
　椎井莉鳥は、ターコイズブルーのタンクトップとショートパンツという格好で、自室のベッドに寝転がっていた。
　スマホにつないだイヤホンからはお気に入りの音楽が流れ、手には学校の図書室で借りた本を持っている。
　だが、そろそろ集中力が切れてきたところだ。
「……そろそろ休憩しようかしら」
　莉鳥は、本にしおりを挟み、ベッドサイドにそっと置いた。
　体を伸ばすために立ち上がり、なんとなく窓の外を見る。
「外はいい天気ね」
　青空の中で、初夏の太陽は、鮮やかな光を放っていた。
　うっかりそれを直視してしまい、眉間にしわを寄せる。
「太陽って、目が悪くなるから見ちゃいけないんだっけ……」
　そう言って窓に背を向けて、すぐ。
「――え？」
　耳に入れたままのイヤホン。そのコードが、むにょむにょと動き始めた。

「何？　なんでコードが勝手に動き出してるの？」
　イヤホンは、両耳からも、スマホからも外れ、うにうにと体に纏わりついてきた。
　上の部分は首筋を、下の部分はバストの下を、くすぐり始める。
「ちょっと！」
　さすがに焦り、莉鳥はイヤホンを掴もうとした。でもそれは予想よりもすばしこく、肌の上をにょろりと逃げてしまう。
　引きずるコードは細い分、刺激は微弱。でもそのタッチが、こそばゆい。
「あっ……ってこれは……はうっ」
　身をよじったすきに、イヤーピースが、タンクトップの下に潜り込んだ。
　ピースが進むのは、ちょうど胸の上。ざりと擦れる感覚が――。
「さすがにまずいって……ひあっ」
　なんとか外に出ているコードを掴んで引き抜こうにも、イヤホンも根性がある……とでも言えばいいのか。丸い先を肌に張り付けたように、はがれまいと踏ん張っている。

　それでも強引に引っ張れば、コードが莉鳥の手首にまで絡みついてきた。
「ま、待って……っ」
　前腕を下から上へ、ぐるぐる巻き付き、ぎゅうっと絞める。
　だが、こちらにばかり気を取られているわけにはいかない。
　タンクトップの下では、イヤーピースが、ずりずりと素肌を這い続けているのだ。
　単調に進んでくれればいいのに、それは時折止まって、ぶるぶると震えた。
　ピースの動きにつられ、当然細いコードも、さわさわ動く。
「ふっ……そこはっ」
　ぞくぞくと体を駆け巡るものに、腰をよじって耐えようとするけれど、立っている脚から力が抜けてしまいそう。
「だめ、もう耐えられない……！」
　言うなり莉鳥は、一気にタンクトップを脱ぎ捨てた。
　細い上半身のすべてをさらし、わずかばかりのふくらみ近くに蠢くコードをひっつかむ。
「いい加減にしてっ！」
　叫び体から、イヤホンを引き離そうする。
　と、その先を莉鳥の肌につけたまま、コードはシュンとピース部分を垂れた。
「なによ、今更そんな……」
　しおらしいところを見せたって、許さない。
　そう伝えるはずだったのに、莉鳥は言葉を失った。
　イヤホンが、すりすりと手のひらに、身を寄せてきたからだ。
　それは先ほどまでの動きとは明らかに違い、子猫が体をこすりつけてくるようなしぐさで。
「……ちょっとかわいい、かもしれない」
　莉鳥が、イヤーピースをつんとつつく。
　コードはパタパタと上下に跳ねた。
「猫じゃなくて、犬みたいね」
　莉鳥は、手のひらの上で大人しく丸まり、こちらを見上げるイヤホンを、そっと撫ぜた。
　イヤホンはまた、ぱたりとコードを揺らし、さらに莉鳥に、すり寄るのだった。

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