薔薇色の休日｜リアクション

薔薇色の休日

【三角形の昨日と今朝のこと】

　さて、時間は少しさかのぼり、昨日のこと。

　橘千歳と御剣刀は毎朝寝子島神社で剣の稽古に励んでいる。
　その日もいつもと同じように鍛練に励み、一段落をついて汗を拭いながら他愛ない話を交わしていた。
「星ヶ丘の薔薇園？行ったことあるわ、一度だけだけど」
「中のカフェに美味しいケーキやお茶があるって聞いたんだが……俺は星ヶ丘詳しくないし、良ければ案内してくれないか？」
　星ヶ丘の薔薇園内にある評判のカフェ。
　食欲旺盛で、更に飲食店でバイトに励んでいる刀としては是非行ってみたい場所だった。
「もう、仕方ないわね。いいわ、付き合ってあげる」
　刀の申し出にしょうがない、と肩を竦めてみせた千歳だったが、内心は満更ではないようで。
　表情は努めて澄ましてはいたが、ほんのりと赤くなった頬までは隠せない。
　二人きりで出掛けることに思いを馳せ、緊張と期待が入り混じった落ち付かない気持ちを抱きながら学校に向かったのだった。

　
　その日の昼休み。

『バラ？カフェ？』
「ああ、星ヶ丘寮の近くにある薔薇園、その中にあるカフェに行くことにしたんだ。明日は丁度休みだし」

　刀はと友人である小山内海と学食で一緒に昼食を食べながら薔薇園の話題を出した。
　刀の話で海は最近噂になっている色の変わる薔薇の話を思い出す。

『いろがかわるバラふしぎ』
『みてみたい』

　会話用のスケッチブックにさらさらと気持ちをしたため、刀に見せる。

「じゃあ一緒に行くか？」

　刀が小さく笑って問いかければ、ぱぁっと海の表情が華やぐ。
　コクコクと何度も頷き、海もまた『刀と二人でお出かけ』に期待で胸を膨らませるのだった。

　そして今朝。
　待ち合わせ場所にて。
「「…………」」
　海と千歳の２人が互いの姿を見て、不機嫌ではないがなんとも微妙な面持ちをしていた。
　海の装いはサイドテールを纏める青いリボンと同じ青地に白い水玉模様が爽やかなワンピース。その上に裾にフリルがあしらわれた白いパフスリーブのパーカーを羽織り、足首に巻かれたリボンが可憐なバレリーナ風ウッドソールシューズが足元を飾っている。
　女子として気合いが入っていることは一目瞭然だ。
（……多分、小山内さんも知らなかったのよね。今日私が来るってこと）
　千歳もまた海が来ることを知らなかったのだが、刀がどういう人間かを思い返せば２人きりで出掛けると言うことの方が考えにくい。特に他意もなく、他にも誰か誘うに決まっている。
（ま、そうよね。御剣君だもの……）
　千歳は決して刀のそういう性格を嫌っているわけではないが、こっそりと小さくため息をつく。
（うん……刀君だもんね。ちゃんと人数聞いておけばよかったかも）
　海も海で千歳と同じようなことを考えていた。
　気合いの入った自分の服装にちょっと恥ずかしさを覚えつつも、やはり小さくため息をつく。
　海も千歳も決して仲が悪いわけではない。
　むしろお互い好印象の部類だ。
　ただ今日、この状況においては溜息をつくなというのも無理な話で。
（えっと……なんだ、この微妙な空気は）
　この空気を作りだした張本人である刀は、２人の乙女心も知らずに一人そわそわするのであった。

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