薔薇色の休日｜リアクション

薔薇色の休日

【紳士と2人の赤い少女】

　シグレ・ナイトウォーカーが薔薇園に訪れたのは、まだ日差しの強くない昼前のことだった。
　話題になっているせいか、薔薇園の出入り口になっている門周辺は客でごった返していた。
　そんな中、門の前で行ったり来たりを繰り返している少女がシグレの目に入る。
　白を基調とした、頽廃的というよりかは幻想的な雰囲気を醸し出しているゴシック調のドレスを身に纏った、どこか浮世離れした雰囲気の少女。
　それは何度かシグレを茶会に招いてくれたことのある緋紅朱赫乃だった。
「赫乃じゃないか」
「ぁ。……し、シグレさん、こんにちは」
　星ヶ丘寮にある自分の庭で薔薇を育てている彼女もまた不思議な薔薇の噂に惹かれてやってきた人間の一人だった。
　しかしかなりの人見知りの為、知らない人間で賑わっている薔薇園の中に入るのを躊躇していたらしい。
　気を許しているシグレの顔を見た赫乃はほっと胸を撫で下ろし、ほんのりと頬を赤く染める。
「シグレさんも、薔薇を……？」
「ああ、見事な薔薇が咲いていると聞いてな。それに不思議な薔薇まであると言うし。……ところで、今日は一人なのか？」
　問いに対してこくんと小さく頷いて答える赫乃に、シグレは顎に指を当てて少し考える。
（一人にしておくのはどうにも不安なんだよな……この小さなレディは）
　紳士の国出身のシグレとしては見過ごせないものがあった。
「これも何かの縁だ。今日は俺がエスコートしてやろう」
「え……！？」
「ほら、足元。転ばれたら大変だ」
　驚く赫乃に転ばないよう注意を促し、シグレは紳士然として手を差し伸べる。
　最初こそ戸惑っていた赫乃もおずおずとその手をとり、二人の姿は薔薇園の中へ消える。

　そんな2人の様子を少し離れた場所から見ていた少女がいた。
　御薗井Ｅセレッソである。
「あれは赫乃チャン……！これはチャンスなノ！」
　セレッソは赫乃と同じクラスの友達だった。
　今日は不思議な薔薇がどんなふうに色が変わるのか見てみたいと思い、薔薇園に来たのだ。
　自分なりの観察記録をつけようとポシェットの中にはメモ帳とペンもちゃんと用意してある。
（色が変わる不思議な薔薇。そんな花はきっと世界を旅しているパーパも見たことないワ！）
　たった一人の家族であるパーパはセレッソの一番大好きな人だ。
　パーパはセレッソの話をとても楽しそうに聞いてくれる。
　パーパが嬉しいとセレッソも嬉しい。
　旅をすることの多い人だから一緒にいられない時間も多いが、その分セレッソは学校であったこと、寝子島で見たもの、いろんな楽しかったことを手紙でパーパに伝えるのが楽しみだった。
「不思議な薔薇の噂、この目で確かめて、手紙に書いて自慢しちゃうノ！」
　可愛らしいドヤ顔を浮かべてセレッソは気合いを入れる。
　不思議な薔薇の元に辿り着く為、薔薇がどんな風に色が変わるのかを見届ける為、セレッソは不思議な薔薇の所へ行くであろう二人を見失わないよう追いかけ始めたのだった。

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