薔薇色の休日｜リアクション

薔薇色の休日

【テロリストスレイヤー】

（ほぅ、もうそこそこ検証結果が流れてるようだな……手間が省けた）
　草薙龍八はねこったーを確認しながら薔薇園の奥へと向かっていた。
　流れてきた情報によると噂の薔薇を検証できるのはこの辺りらしい。
（しかしやはり人物と薔薇の変化はこの目で確かめて撮影するなり記録を残しておきたいところだな……ん？）
　聞き覚えのある声がして龍八は咄嗟に茂みに体を寄せ、その陰に姿を隠して耳を澄ませた。
（この声……御剣か？他にも女子がいるようだな。奴らも薔薇を確認しに来たのか……これは好都合だな）
　普段から人間観察を常としている龍八からしてみれば、薔薇の色など見なくてもおおよその人間関係は把握できる自信があった。しかし薔薇の色と合わせて見れば、その差の有無を確認して修正できるし、何より情報は多いに越したことはない。
　そんなことを考えて刀達の様子を遠目に観察しようとした、その矢先。
　ドンと、龍八は背中に小さな衝撃を感じた。
　まるで子供がぶつかって来たような、そんな感覚。
「……」
　龍八が無言で振り向けば、頭を擦っている大田原いいながそこにいた。
「あたたた……すまぬ、人探しをしていたら……って、アイエエエテロリストナンデ！」
「ドーモ。イイナサン。テロリストです」
　龍八を尾行していたいいなだったが途中で見失い、焦ってきょろきょろしながら探しまわった結果偶然にもぶつかってしまったらしい。
「というか、こんなところで何をしている？」
「それはこちらの台詞じゃ！まさかまた良からぬ企みをしているのではあるまいな！？」
「さぁな」
「ぐぬぬっ、お主という奴は！たまにはこうやって綺麗な薔薇でも眺めてボンノーを減らすが良い！！」
　聞く耳持たぬといった龍八の態度に、いいなは近くにあった薔薇を摘み取りずいっと押しつける。
「ん？黄色い薔薇、じゃと？」
　周りに咲いている薔薇は白ばかりだと言うのにどういうことだといいなが首を捻っていると、龍八は隠しもせずに大きくため息をつく。
「はぁ、迂闊にここの薔薇に触ると感情が丸解りになるぞ。俺には関係ないがな」
「な、なぬっ！？ではこれがねこったあで皆が噂しておった……」
（黄色の意味する感情はなんだったか……ん？）
　龍八はそこで先ほどまで近くにいた御剣達の姿が消えていることに気付いた。
「チッ、折角のチャンスを潰したか。まぁいい、別のサンプルを探そう」
「ま、待つのじゃ！」
　舌打ちして踵を返す龍八を制止するいいなだったが、龍八は振り返ることなく何処かへと去っていく。
　いいなが押し付けた薔薇を持って。
（……この色の変化は当然だな）
　ちらりと龍八が手の中の薔薇に視線を落とすと、先ほどまで黄色だったものが漆黒へと変わっている。
（俺はアレを許すことができない。普通の高校生活を楽しみたいという己の望みの為に、自覚なく周りを振り回し、時として日常を壊す力を振り撒いたあの存在を）
　龍八の手の中でぐしゃりと音を立てて漆黒の薔薇が潰される。
　足跡に沿うよう散った花弁は、まるで血痕のようだった。