【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～｜リアクション

【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～

【７】

　シダ美穂戸は元素記号の暗記に励んでいた。
「水平さん、カモメだよ。常識。でもこれ、覚えてどうする？」
「うーん、将来、理系のお仕事就く人は必要なんじゃないかな？」
　緑野の答えにシダはつまらなそうに首を振る。
「シダ、あんまり関係ない。でも、テスト出る」
「そうだね、テストでいい点取るためにも覚えないと。そうだ！　いいこと教えてあげる！」
　緑野は単語帳を唐突にちぎり始めた。
「これはね、こうすると一気に覚えられるんだって！」
　緑野はちぎった単語帳を鷲掴みにすると、なんと口の中へ突っ込んで咀嚼しはじめた！
　これにははらぺこ魔人のシダも呆然だ。
「もこもこ、ヤギか？　単語帳、ウメ～か？」
「まっずぅー！！」
　ぺっぺっと吐き出した緑野。
「やっぱり駄目かぁ。ふぁあ～……」
　緑野は肩を落とすと、つい欠伸が出てしまう。
　その口を突然、シダがガシッと両手で固定した。
「は、はれぃ（なにぃ）～？」
「もこもこ、あくびだ。虫歯ないか？　歯は大事。食べられなくなる」
　グリグリ奥歯を引っ張るシダに為す術ない緑野。
　そのうち、シダも欠伸が伝染った。
「ふあぁー。うつった、もこもこの、あくび、うつった」
　そして再び元素記号の暗記を始めるシダ。
「水平リーベ、ボクのおっぱい。ななまがりシップス、クラークおっぱい」
「シダさんがおっ……ぱい？」
　緑野の目が点になった。
「なんか、変かおっぱい？」
「いやいやいや！　おっぱいって言ってるよおっぱい！」
「もこもこも、おっぱい言ってるおっぱい」
　※互いに自覚はありません。
「……きっと疲れてるのねおっぱい」
　そう言うと緑野は電池が切れた人形のように机に突っ伏してしまう。
「チョーイ、オーイ！　もこもこ寝るなおっぱい！　寝たら、寝るぞおっぱい！」
　シダが懸命に緑野の肩を揺らしても、既に彼女は夢の中。
「ゆさゆさ。もこもこ、むにー。ふにー。おっぱい」
　揺らしたり。頬を摘んだり、文字通りおっぱいしたり。
「起きないおっぱい。もこもこ、無敵かおっぱい？　もこもこおっぱい」
　そのうち、シダ自身も限界が近付く。
「シダも眠くなってきた……おっぱい。もこも…」
　ぱたり、と机に突っ伏してしまった。

　おやすみなさい。

　雨寺凛が食堂に到着すると、そこは既におっぱい祭りだった。
「お疲れ様ー♪　みんな頑張ってるー？　差し入れもってき、……え！？」
　右から「おっぱい」！　左から「おっぱい」！
　オールレンジおっぱいワードが雨寺の耳に入ってくる！
「何でみんなして、その、お、おっぱいなんて言ってるのー！？」
　顔を赤らめて恥じらう雨寺は、この状況を把握しかねているようだ。
「あー、もーっ、みんな疲れてるか寝ボケてるね！　完全に寝ちゃってる人もいるだろうし、ちょっと一肌脱ぐかな！　みんな、おっきろー！」
　彼女は右耳に触って、ろっこん『虚偽声楽』発動！！
　音量ＭＡＸの目覚まし時計の音を雨寺は『叫んだ』！

「ジリリリリリリリ！！！！！」

　いきなりの大音量に飛び上がる者もいれば、全く動じない者もいる。
　少なくとも、目覚めた参加者は何が起きたのかと辺りをキョロキョロするばかりだ。

　雨寺は左耳に触り、ろっこん解除した。
「まぁ、頑張るのはいいことだと思うけど、あんまり根詰めすぎないようにねー」
　呆れたふうにそう言いながら、彼女は自室へ戻ることにした。
「ふあぁ……、じゃあ私は部屋に戻ってまた寝ることにするよおっぱい。おやすみなさいおっぱい！　また明日おっぱい！」
　語尾が変化した雨寺を、「ああ、君もなんだね」と生暖かく見守る食堂の面々。
「……ん？　私なんか変なこと言ったおっぱい？　みんなまだ寝ぼけてるおっぱい？」
　首を傾げながら、雨寺はしきりに「おっぱい？　おっぱい？」と漏らしていた。