神の森、寝子島｜リアクション

神の森、寝子島

　　　３

「よっ、と」
　八神修も、九夜山にいた。
　彼もまた、目が覚めたときに緑に囲まれていた。幸い部屋は無事だったので、すぐに着替えて外に出た。そこでテオに逢い、――テオはこの辺でいいだろうと呟き、姿を消した――話を聞いた。
　修は部屋に取って返すと、クローゼットからカーゴパンツ、長袖シャツ、防寒着、そしてレインウェアを引っ張り出した。下着は保温シャツがあるが、登山用の靴と靴下がない。
　束の間迷い、修はそれらに着替えて出発することにした。途中、アウトドアスポーツ店に寄り、靴、靴下に加えて、帽子とザック、それに保存食とナイフ、手袋なども手に入れる。迷ったが、レジに現金を突っ込んで出てきた。
　当然ながらロープウェイは動いておらず歩くことになったが、修は想定済みだった。
　登山道――だった、と言うべきか――を辿り、ナイフで枇杷やグミ、ヤマモモなど目についたものを片っ端からもいでいく。
　しかし、歩きづらい上に道草を食っているため、なかなか進めない。
「――まあ、急ぐこともないか」
　頂上に着いたところで、木の実の量が十分でなければどうしようもない。どれだけの人間が、木の実を集めているかも分からない。
　修は岩に腰掛け、水分補給をしつつ、保存食として持ってきたチョコレートバーの包装を剥いた。
　――と、視線を感じる。
「……龍目先輩？」
　誰あろう、探検部の元部長・龍目豪がそこにいた。――いや、
「龍目先輩、だよな？」
　男は素っ裸だった。辛うじて短パンだけははいていたが、顔や上半身、足首に至るまでペイントを施し、木の実で出来たネックレスを掛けている。ちなみに裸足である。
「俺はクヤ族のゴウだ」
　彼は言い切った。同じ名前のそっくりさんだろうか？　そういうこともあるかもしれない、と修は思った。
「それは何だ？」
「これ？　チョコバーだけど……食べる？」
　うん、とゴウは頷き、二、散歩前に出るとチョコレートバーを受け取った。彼の背後に百三十センチほどの熊を見つけ、修はぎょっとした。
「大丈夫だ。ユキは俺の命令がない限り、襲わない」
　ゴウはにやりとした。
　口の周りをチョコだらけにして、更に指先を舐めとると、ゴウは尋ねた。
「お前、どこから来た？」
「麓から」
「山の外か？　今日は山が騒がしいが、みんなお前の仲間か？」
「さあ、どうだろうな。仲間もいるし、そうでないのもいる」
　どうやらテオの忠告に従い、登ってきた者もいるようだ。だが、それがどんな連中か分からない以上、仲間と言い切るのは危険だった。
「姿を見たのか？　どんな奴だった？」
「罠に引っかかっていた奴がいた。お前より布が少ないが、俺たちより多い奴だ」
「罠……」
　それはまずいな、と修は思った。後で助けなければなるまい。
「獲物の代わりに神への貢ぎ物にすることにした」
「ちょっと待て。貢ぎ物って、まさか……殺すのか？」
「神がな」
　仮に犯罪者だったとしても、死なせるわけにはいかない。修は、その捕まった人間の名を尋ねた。
「難しい名前だったな。確か、と……トモンタクとか」
「ともん……もしかして、東門巧か！」
「仲間か？」
「ああ……」
　共に冒険をこなした仲間と呼んで差し支えないだろう。しかし、
「よくよく攫われる奴だな……」
と、修は嘆息した。

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