ぎゅーっ♪　しちゃおう！｜リアクション

ぎゅーっ♪　しちゃおう！

　放課後。野菜原ユウの確保に成功した鬼河内萌が、シーサイドタウンで彼の隣を元気に歩いている時だった。
（何だろう、この気持ち……。ボクは今、とてもユウくんを抱き締めたい！）
　萌の薄い胸に突如湧き上がった熱い想い。それは彼女の小さな体をくまなく駆け抜けた。
　それでも萌は花も恥じらう１６の乙女。いくら神魂の影響とはいえ一瞬躊躇するかと思えば……萌の脳裏に浮かんだのは『渡りに船』だった。
　萌はその瞳をきらりんと輝かせ、目の前の愛しい人に向かって思い切りダイブした。
「ユウくーーーーん！！！」

　ボスン。萌は目的地に着地すると、ぎゅうっとユウを抱き締めた。
「お、おい？！　どうしたんだよ？！」
　すぐ上から慌てたような声が降ってくる。その声の振動がユウの胸からも感じられて。自分とユウが１つになったような気がして、萌は嬉しくなって更にぎゅうっと腕に力を込めた。
　男の子のユウの体。自分が抱き締めているというより、彼に包まれているみたいだ。オタオタするユウの両腕が自分に巻きつけばいいのにと思いながら、萌は子猫のようにユウの胸に頬をすりつけた。
　ドキドキする。でもユウくんの胸もドッキドキだね？
　ふふと萌は微笑む。キミがいるだけで、ボクはいつでもドキドキする。不思議だよね。キスまでした仲なのに。
　校長先生のお顔同士だったあの出来事を、萌はしっかりと既成事実にしていた。だってお互いの心は校長先生じゃなかったもん！

「ちょっ、お前ほんとにどーしたんだよ？」
　戸惑いと照れがユウの声音に滲む。あの突然吹き荒れた嵐のような感情はもう萌の中からは消え去っていたが、それでも萌はずっとユウを抱き締めたままだ。
（だって、チューに比べれば恥ずかしくないもん！）
　萌はユウを見上げ、自慢の八重歯をにっこり見せて笑った。
「神魂！　これは神魂の影響なんだよ～、ユウくん！」
「出た、神魂……。ロクな目に合わないんだよなぁ」
　諦めの境地でユウは天を仰ぐ。萌、もう神魂の影響は切れてる事はしっかりと黙っておく。
「なんだよ、ユウくん！　こんな可愛い女子校生が抱きついてあげてるっていうのに～！」
　ちっぱい胸を押しつけながら、萌はぎゅうぎゅうとユウを抱き締める。胸がない分、ユウの感触はダイレクトだ。ちっぱいもたまには役に立つ。
　しばし萌はユウの体温を楽しんでいたが、ふと気が付き口を開いた。
「そういえばユウくんは影響ないの？」
「は？　なにがだよ？」
「神魂」
「神魂～？　別に俺は何とも」
　離れる気配のない萌に痺れを切らしたユウが、半ば強引に彼女を引っぺがす。バタバタと暴れる萌の頭を、少し赤くなりながら押さえていたユウがふと手を離した。
「ユウくん？」
「だ、抱き締めたい……」
「え、うそ？！」
　ユウの言葉を聞き、ボッと萌が赤くなった。どうしよう、やっぱユウくんもボクのこと……。
　ふら、とユウが近付いてくる。
（いいよ、ユウくんになら全部あげる！）
　萌が覚悟を決め両手を広げる。が、しかしユウはすうっとその横を通り過ぎ。
「これぞ理想のおっぱいだよな～！」
　ぎゅう。ユウは本屋の店頭にあった見事なおっぱいを持つグラドルの看板を抱き締めた。

「ユウ……くん？」
「あーちくしょう！　こんな看板じゃ板の感触しかしねえっ」
「ユウ……くん？」
「これだったらまだ鬼河内の方がましだったか……おっぱい……あったよな？」
「ユ、ウ、く、ん★」
「……ひっ！」
　ゴゴゴ。黒い炎を背負う萌を見てユウが我に返った。看板を放り出し逃げ出すユウ。「バカーッ！」と涙目で追いかける萌。
　さっきまでのちょっと甘い雰囲気はどこへやら。結局こんな形に落ち着いてしまう２人なのだった。

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