ぼくのわたしの好きな時間｜リアクション

ぼくのわたしの好きな時間

　日曜日の昼頃のこと。
　御巫時子は寝子高近くのコンビニエンスストアの横を通り過ぎ――かけて、はたと、足を止めた。
　大きな硝子窓の向こうに、五十嵐尚輝先生の姿を見つけたから。
（お弁当やカップ麺を購入するのでしょうか？）
　なんて考えながら、時子は五十嵐先生を追うようにして、店内に足を踏み入れた。
　時子の読み通り弁当を手に取っては見比べていた五十嵐先生が、
「……あ、御巫さん」
　ふとした拍子に時子に気付いて、ぼそと零す。
　会釈をしたあとで、時子はにっこりとした。
「こんにちは、尚輝先生……。お弁当を選んでいるんですか？」
「ええ、まあ。一番安いのにしようかと思いまして……ああ、これですかね」
　弁当だけを手に、五十嵐先生はレジの方へと向かう。
（飲み物は、いつものようにコーヒーを入れるのでしょうか。それにしても……）
　――日曜日も会えるだなんて、嬉しい。
　唇が、自然、笑みを形作る。会計を終えた五十嵐先生へと、
「学校までご一緒しても良いでしょうか？」
　と、時子は尋ねた。五十嵐先生が、ごく軽く首を傾ける。
「構いませんが……何か、用事ですか？」
「用事というか……シュークリームを、一緒に食べませんか……？　コーヒーにも合うんですよ……」
　口元を緩めて、時子は、手にしていた小さな箱を五十嵐先生の前に翳した。
　中には、小ぶりのシュークリームが沢山入っている。
「可愛くて美味しそうで、つい多めに買ってしまったんです。良ければ一緒に」
「……成る程。わかりました、でしたら、お言葉に甘えてしまいますね」
　かくして、２人は寝子高の実験室へと。
　コンビニ弁当の蓋を開けながら、五十嵐先生が言う。
「御巫さんは、お昼は？」
「私は、先ほど済ませて来ました」
「それは……手持ち無沙汰ではないですか？」
「いいえ、そんなことは全然」
　答える時子がおっとりとした、屈託のない笑顔だったので、
「なら、いいのですが……」
　と、五十嵐先生は割り箸を割って焼き鮭を口に運んだ。
「今日は、鳥さんと一緒に食事できる鳥カフェに行ってきたんです」
「鳥カフェ、ですか」
「はい。可愛い鳥さんがいっぱいで、楽しかったですよ」
「それは良かったですね。どんな鳥がいましたか？」
「文鳥や、インコ達が。どの子も、すごく人懐っこくて……」
　鳥達と触れ合った話を、嬉しそうに語る時子。
　五十嵐先生は弁当を食べながら、時子の話に相槌を入れたり、質問を零したりした。
　食後は、シュークリームを、五十嵐先生がビーカーに淹れたコーヒーと一緒に。
　シュークリームを齧って、「あ、これは美味しいですね」と五十嵐先生が漏らす。
「良かったです……そうだ、そういえば、近くの公園のアジサイが綺麗に咲いてたんですよ……」
　もうすぐ梅雨ですね、との時子の言葉に「ああ」と呟く五十嵐先生。
「もう、そんな時期なんですね」
「アジサイって、雨が降るとキラキラ輝いて、より綺麗になる気がするんです……」
　言葉を交わしながら、２人で過ごす時間はあっという間に過ぎて。
　帰り道でも、時子は、五十嵐先生のことを思い出して、笑顔を零した。
（この時間も、好きですね……）
　幸せにしてくれる人だなあと、時子の胸には、あたたかな色が射した。

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