パンツ、落としました｜リアクション

パンツ、落としました

●空舞うパンツの行き先は

　その騒ぎの間に、咲は飛んでいったくまさんパンツを拾うべく、この場をこっそり抜け出そうとしていた。
　――が、獲物を狙う獣は、いつだって執念深いもの。
「咲、逃がすものかっ……」
「来ないでっ」
　お尻を押さえてじりじり進む咲に、時音があっさり追いついて、背後から覆いかぶさってくる！
「フフフ……捕まえたぞ……」
「は、離して！　スカートめくるなっ！　あ、胸も触るなあああっ！」
「じゃあせめてこの記念に、写真をっ」
「撮らないでっ！　スマホしまってえええ」
「くそう、咲から離れろっ！」
「そう言いながら、のってこないでっ、亨君っ」

「見つからない……本当にどこに行ったの。まさか誰かに拾われてないよね」
　桜は、お気に入りのブルーパンツを見つけられず、すっかり気落ちしていた。
　もう、地面ばかりを見るのも疲れてしまったと、見上げた空。
　そこに、ひらりひらりと舞っているのは
「私のパンツっ！」
　凪の嵐に巻き込まれ、ここまでやって来たのだ。
　そんなことを知らない桜は、嬉々と叫んで、手を伸ばした。
　だが、日の光にビーズ煌めくブルーパンツには、あと少しで届かない。
　それならと、高くジャンプ、上手にキャッチ！
「やった！」
　そのまま着地し、鞄に放り込もうとした、ところで。
　ふわん！　キャッチしたときに舞い上がったスカートが、再び垂れていくことに、気がついた。
　そう、布が垂れたということは、それまで浮かんでいた、ということで。
「終わった……今、絶対中見えてた……」
　がっくり膝をつきたいくらいに落ち込むが、そんなことをすれば、ノーパンお尻が丸見えなのは確定だ。
「ひどい……ひどすぎる……」
　落胆しながら桜は、パンツをはくべく、よたよたとコンビニトイレへ向かうのだった。

　さて、空舞うパンツを見つけたのは、桜だけではない。スピカもだ。
　しかもちょうどいたところに、恋人のものと二枚が、そろって飛んできた。
　互いに一枚をキャッチして、見ればそれは相手のもので。
「それ、私の……」
　恥ずかしいと頬染めるスピカ。まだまだピュアな十六歳。
　だがつい、恋人のパンツを握り締めてしまう。本能に忠実な十六歳、でもある。
（だってリンタロウのパンツなんて、本当なら匂いを嗅いで使いたっ……）
　――と、以下は自主規制。
　かつて夢に見たけれど、夢と現じゃ、リアル感がまるで違うから、興奮度合いもひとしおなのだ。
　しかし、握って見つめたパンツの先に、地面に映った自分の影を見、ここは路上だったと思いだした。
　公共スペースでのあれこれ、ダメ絶対。
「パンツ、はかないとね」
　スピカは、握ったパンツを相手に差し出し、にこり、微笑んだ。
　今ここでは、これが限界。
　あとはもっと人の少ない場所で。若い人、お二人で。

このページにイラストを設定する