パンツ、落としました｜リアクション

パンツ、落としました

●パンツを落とした少女が、不条理に震えています

「……ハハッ、嘘……だろ？」
　矢萩咲は、落し物通りの端で、唇を噛んでいた。
　バイト中に飛ばされたうえ、場所は旧市街。
　一刻も早く帰ろうと足を踏み出したところで、突如、感じてはならないところに、感じてはならない喪失感があると気づいた。
（こ、これは……まさか）
　入浴の度に着るものはすべて脱ぐ。トイレに行けば、パンツも脱ぐ。
　でも全て着衣をしているのに、それだけ取られてしまうのは、まるで心情が違っていた。
（何故パンツを、パンツだけを落とすんだ……しかも、今日に限ってっ）
　本当ならば、この悔しさを全力で叫びたい。
　だが実際にそうすれば、自分がノーパンだとアピールすることにほかならず、咲はただただ、拳を握りしめた。
　とにかく、なんとしてもいますぐに。
（パンツを見つけなくてはいけないっ！　……秘密を、知られないためにもっ！）
　咲はぎらぎらと目を輝かせ、通りを歩き始めた。

　一方、同じパンツをなくした女子でも、立ち尽くしてしまう者もある。
　水上桜はそのタイプであった。
「ねえ本当に？　そんなことがあっていいの？」
　スカートの下に入り込んだ風で気づいて、いっきに体が硬直した。
（勘違い……であるはずはない、けどっ）
　信じたくなくて、スカートの上からそろそろと太腿の付け根を辿ってみる。
　と、はいていればあるはずの、パンツのラインが感じられない。
「またか……まただ……またフツウかっ！！」
　ぶつぶつと呟く背に、じっとり悪い汗が浮かんでいく。
「なんでっ、ここはっ、こういうことばっかりっ！！」
　ただ、落としたものは探さなくてはならない。
　そうでなくては、とてもじゃないが、平然と島を歩けない。
　いやむしろ、家にも学校にもたどり着けない。恥ずかしさで死ねる。
　桜はぎりりと歯噛みして、通りをそろそろと歩き始めた。

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