全力疾走！　寝子島横断三人四脚駅伝！（第一区間）｜リアクション

全力疾走！　寝子島横断三人四脚駅伝！（第一区間）

　この間、【猪】は参道商店街に軒を構える西野町とうふ店に到着。
　ぱーぷー♪
　看板娘が今日もラッパを吹いて、選手たちを応援中。
　早速、千鳥が動画の導入部分を開始する。
「次は旧市街の老舗、西野町とうふ店の紹介だよー！　サクサクの油揚げと濃厚なお豆腐が絶品……！」
　カメラは店先で売られている商品へズームイン。
　出来立てのお豆腐と、それらの関連品が完全にメシテロである。
「もう我慢できない！　ここは俺が実食して世界のみんなにこの豆腐の美味さを伝える！」
　御剣はお店の人に頼んでお皿とお箸と醤油と薬味を出してもらう。
　ちょっと出して貰い過ぎじゃね？
「見てくれ！　この豆腐を！　雪のように真っ白だ！！　油揚げもキツネ色なんかじゃない、黄金色だ！　こんなの見たことあるか？？　ないだろう！？　何故なら、日本のどこを探しても、寝子島に来ないと食べられないからだ！！」
　なんか、御剣の背後に『テニスラケットを掲げた炎の妖精』が見える気がするのは気のせいかもしれない。
　油揚げは醤油とネギと削り節を乗せてパクっと口の中へ放り込む。
「美味い！　噛めば噛むほど大豆の味と香ばしい油の風味がベストマッチ！」
　続いては冷奴。醤油とおろしショウガで、これまたパクっとひと口。
「これも美味い！　そして食べ始めたら止まらない！　食べすぎはレースに勝てないけど、腹が減っては戦は出来ぬ！　俺は豆腐を喰うぞッ！」
　見る見るうちに完食した御剣の食べっぷりは、撮影していたクルーたちの腹の虫を確実に刺激していた。
　ディレクターに至っては、自腹で豆腐をこっそり買っているほどだ。
「でも、お豆腐だけじゃないんだよ！　俺のお気に入りはこの豆乳プリン！　豆腐に負けず劣らず濃厚な大豆の味なんだけど、しっかりプリンしてて甘くてなめらか！　口の中でとろけちゃってすごいんだよー！」
　店主も「新規顧客の開拓に余念がありません」とコメント。
「なんて美味いんだ！　豆乳だからヘルシーだし、これは女性に嬉しいプリンだな！」
　刀くん、まだ食べんのか君は！？
　どさくさに紛れて六月一日宮も投入プリンに舌鼓を打つ。
「本当にうまいぜー、豆乳プリン！　これが食えるのは西野町豆腐店だけ！　心を込めて作った豆腐に趣ある店内！　こだわりぬいた材料で作った豆乳プリンなどの美味しい品揃え！　是非、ご賞味あれ、だぜ！」
　撮影クルーは我慢できずに豆乳プリンを全員買い込んでしまったとさ。

「まずいな、出遅れた！」
　ここにきて、だいぶ後れを取った事に気が付く御剣。
　彼が食べすぎたことが仇になったわけではなく、当初のコース取りに無理があったのだ。
　動物園のあと、ほぼ逆走せずにチェックポイント付近でＳＮＳ映えポイントを探すべきであった。
「あとは走るだけだけど、どうしよう！？」
　千鳥が狼狽していると、六月一日宮がニヤリと口角を釣り上げる。
「御剣、千鳥。俺にいい考えがある！」
　ごにょごにょごにょ、と三人は作戦会議。
「……いけるか？　千鳥、御剣？」
「反則、じゃ、ないよな、六月一日宮？」
「で、でも、これしかないよ！　僕が犠牲になれば済むことだし！」
　慈愛のちどりんスマイル。
　この後の過酷な彼の命運を前に、六月一日宮と御剣は涙を飲んだ。
「千鳥、無事にゴールしたら飯を奢るぜ……！」
「勝とう、六月一日宮！　千鳥の犠牲を無駄にしてはいけない！」
「大丈夫、僕の事は、気にしないで！」
　覚悟を決めた三人。
「「すまない、千鳥！！」」
　六月一日宮と御剣は、いきなり千鳥の両腕を各々の方に担ぎ上げた！