サイバテック・バトルフィールド｜リアクション

サイバテック・バトルフィールド

　木馬が進んでいくのを見つめるプログラムが１つ。だが、彼女はとくに慌てる様子もなく手を動かす。すると、クラッシュされたウイルスの破片が、彼女に集まり、取り込まれていく。
（まぁわかりやすく2進数が流れてたりするしね？　たぶんデータワールドだろう、うむ。なんか機能回りの知識があるのは……キニシナイ！）
　黒兎都……否、Code:P.Sは周りの状況から瞬時に理解し、同時に行動を開始していた。

　P.Sとは『プロト・サルベージャー』の略である。
　『彼女』はデータの欠片を集めて元のデータを再構築する目的で作られた試作型AIだったのだが益のあるデータだけでなくトラッシュデータまで集めてしまう性質があった。
　故に、本来ならば消去対象だったのだが……奇跡が起こった。神魂である。そのお陰でこのボディを得、行動している。
　彼女は様々なデータを蒐集、再構築した結果、自身のアップロードをしたおかげでバグを自己修正、改善にまでこぎつけた成長型でもあった。
　Code:P.Sは仲間によって倒されたネズミ型とカラス型のデータ片をかたっぱしから回収し、読み解く。
（データ屑を回収、解析、再構築を機能として持っているから、修正プログラムに近いのかしらね？　まぁ、うちはそれを）
　両手を出して作り出したのは、カラス型ウイルスに限りなく似ている物。だが、その性能はあきらかに違う。
（攻撃に転用するけど）
　彼女は次々にカラス型を生み出す。それらが木馬へと戻るが、与えられるのはこの世界の情報ではない。
「外は守れても中からは弱いってのはどんなものにも通じるし」
　彼女はぽつり、とこぼすと更なるデータ片を求めて飛び立つ。彼女が送り出した改変カラス型は、果たしてどのように作用するのだろうか？

　その改変カラス型が、木馬型ウイルスに取り込まれていく。Ritori027がある程度接近したところで敵の弱点へと攻撃を行う。
　反撃に関してはWired Empressがつけたカエル型プログラムが防いでくれる。そのお陰でRitori027は攻撃に集中できるのだ。
　その最中、彼女たちは異変に気付いた。木馬型の逃げ足が鈍くなっているのである。その上、敵側の反応速度が徐々に落ちつつあった。
（……反撃が、遅くなった？）
（なるほど、そういう事ね）
　攻撃しながらも違和感を覚えるRitori027に、Wired Empressが通信を入れてデータを転送する。と、彼女はすぐさま決断し敵の中に入り込む。
「カエルちゃんたち、あの子をフォローして！」
　Wired Empressが指示を出せば、カエル型プログラム達も動きだす。いつのまにか改変カラス型もそれに付き添っていく。
　その様子を見ていたCode:P.Sの存在を察知していたWired Empressはさりげなく彼女にも通信を入れた。
「ねぇ、あなたが作ったカラスちゃん、もうちょっと用意できるかしら？」
「んー……材料が、足りないかも。再構築って前提だからね、倒された種類、それぞれの数までしか構成できんのが難点なのよ」
　Code:P.Sがぼんやりと……それでいて僅かに困ったような間で通信を送ると、ふわりと移動を開始する。
「とりあえず、再構築するためには材料がいるから、激戦区いってくる。そこから流せば間に合う？」
「なるだけ早めにね」
　Code:P.Sの言葉に、Wired Empressが頼む。Code:P.Sはあいよ、と返すと音もなく姿を消した。
（さて、どれだけ時間稼ぎになるかしらね）
　木馬へと飛び込んでいったRitori027をフォローしながら、Wired Empressは流れてくる情報を解析し続けた。